ヒビノコト

「アメノイエの住人」雨野紡が日々の暮らしを綴る日記です。
家の中での過ごし方や産地での出会いをこちらでご紹介します。

鉄のフライパンと過ごした一年

鉄のフライパンと過ごした一年

ずっと使える道具を選ぶということ 買ってから、もう一年になる鉄のフライパン。 毎日のちょっとした炒めものから、休日のしっかり焼き物まで。台所でのあれこれにそっと寄り添ってくれたのは、新潟・三条の鍛冶職人さんが作る「野鍛冶やまご」の鉄フライパンでした。 薄くて軽やかに作られているので、鉄のフライパンにありがちなずっしり感がなく、片手でも扱いやすいのが本当に嬉しい。女性でも気軽に手に取れるのが頼もしいところです。 テフロンのフライパンも使っていましたが、どうしても加工が剥がれてしまうと買い替えが必要になります。だから、ずっと使い続けられるこの鉄のフライパンを選びました。日常で気軽に手に取れるし、手入れ次第でずっと一緒に使える。そういう安心感もあって、自然と出番も増えました。 以前にも紹介しているので、よければこちらも覗いてみてください。>「使うほどに馴染む、野鍛冶やまごの鉄フライパン」はこちら>「鉄のフライパンでつくる旅の思い出」はこちら 一年使ってみて 新品と比べると、一年使ったフライパンの表情ってこんなに変わるんだ、とつくづく思います。(左:新品、右:1年使用) 火の通りが穏やかで、素材の色や甘みを素直に引き出してくれるのが頼もしい。玉ねぎをじっくり炒めれば甘みがゆっくり滲み出るし、肉の表面も焦げすぎず、ちょうどよくこんがり焼ける。使い込むたびに少しずつ増していく表面の艶に、料理の時間がいつもより愛おしく感じられます。 鋳鉄ほど分厚くないから、熱の立ち上がりも早く扱いやすい。この“ほどよい中間感”が、日常の台所には本当にちょうどいい。 新品の黒々とした硬質な印象も素敵ですが、使い込んだ表情のフライパンには、やっぱり愛着が湧きますね。 長く付き合うためのお手入れ 野鍛冶やまごのフライパンは、買ったときに防錆加工がされているので、最初の油ならしはしなくても大丈夫。でも、私は日々ちょっとした手入れをすることで、ずっと気持ちよく使えるようになりました。 1.料理を移す 使ったあとは、なるべく早く料理をお皿に移します。置きっぱなしにしておくと、鉄の香りが強くなったり、表面が少しずつ変色してしまいます。 2.汚れを落とす フライパンが温かいうちに、ぬるま湯とスポンジやたわしでさっと汚れを落とします。洗剤や食洗機は使わない方がいいです。油の膜を洗い流してしまうと、焦げやすくなるし、錆びやすくなってしまいますよ。 3.水分を飛ばす 洗ったあとは、拭き取って弱めの火にかけて水分を飛ばします。ここでしっかり乾かしておくのが、鉄フライパンと長く付き合う秘訣です。 4.油を塗って保管 火を止めたフライパンにキッチンペーパーで薄く油を塗っておくと、次に使うときも滑らかで扱いやすい状態が保てます。使うたびに油の膜が少しずつ育っていく感じが、なんだか嬉しいんです。 一見すると手間のように思えるこの作業も、続けていくうちにだんだん楽しくなってきました。油を塗ってフライパンを棚に戻すと、台所が片付いて、ようやく今日が終わったんだなって思える。私にとっては、ちょっとした「一日の締めくくりの習慣」みたいになっています。 育つ道具の楽しみ 鉄のフライパンって「完成品」じゃなくて、使うたびに育っていく道具なんだ。一年を通して使っていて、改めて思いました。買ったばかりの真っ黒でピカッとした姿も清々しいけれど、油がなじんで艶が増し、焦げ付きにくくなっていく変化そのものが見ていて楽しい。小さな傷や焼け跡さえも、料理を重ねた証に見えてくるから不思議です。 台所に立つたびに、少しずつ表情を変えていくフライパンを眺めると、ただの調理器具じゃなくて、日々の時間を一緒に歩いてくれる「相棒」になったんだな、と実感します。これから先、どんな風に育っていくのか、考えるだけでちょっとワクワクしますね。 今度キャンプのお誘いをいただいているので、自慢のフライパンを持参しようかなんて考えています。夜の焚き火のそばで、このフライパンで料理する姿を想像するだけで、少し胸が躍ります。  

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目止め アメノイエ

うつわを迎え入れる日

新しいうつわを手に入れた日。包みをほどいて、うつわをそっと手に取るあの瞬間に、ふわっと心が踊ります。 光の加減で釉薬がきらりと光ったり、手のひらに沿うやわらかな丸みにふれてみたり。うつわを眺めながら、何を盛ろうか、どんなふうに使おうかと想像するだけで、気持ちがふわりと浮き立ちます。 ただの道具なのに、出会ったばかりのうつわが、これからの食卓の景色を少し変えてくれそうな気がして。そんな予感が、静かに心を弾ませてくれるのです。

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一息の時間をつくる道具たち

一息の時間をつくる道具たち

私は、飲みものが好きです。白湯、紅茶、緑茶、ほうじ茶、中国茶、コーヒー、水、ビール、ワイン、日本酒…。思いつくままに並べていたら、止まらなくなってしまいました。 喉ごしのいい冷たい飲みものも、ほっと落ち着くあたたかい飲みものも、そのときの気分や時間に合わせて、自然と手が伸びています。食べることも好きだけれど、どちらかというと「飲むこと」のほうに、気持ちが向いている気がします。だからでしょうか。いつの間にか、飲みものまわりの道具にも、ちょっとしたこだわりが出てきました。

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暮らしの中で、“道具”を楽しむ

暮らしの中で、“道具”を楽しむ

先日、長野県の安曇野へ旅に出かけました。山あいの空気は少しひんやりとしていて、深く息を吸うたびに、体の奥がゆるやかにほどけていくような感覚。 立ち寄った道の駅では、地元の野菜や果物にまじって、美しく並んだ乾麺のそばが目にとまりました。石臼で挽いたような香りがしそうな、素朴で誠実なパッケージ。迷うことなく手に取り、お土産に。 帰ってきた週末、そのおそばを茹でて、お昼に「とろろそば」に。すり鉢を取り出し、長芋を擦る時間も、旅の余韻のように静かで穏やか。音、香り、手の感触。ひとつひとつが心地よくて、「こういう時間こそが、生活の真ん中にあってほしいものだな」と、ふと思いました。

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夏のごはん、うつわとともに

夏のごはん、うつわとともに

毎日のように気温は30度を超え、外に出るだけで汗ばむような暑さが続いています。湿度も高く、体力を消耗しがちなこの季節。何を食べようか考えるのも、少しおっくうになる日もありますね。そんなときに自然と手が伸びるのが、やっぱり麺料理。 火を使う時間はなるべく短く、のど越しがよくて、するりと食べやすいもの。そうめん、冷やし中華、フォー、うどん……涼しさを求めて、つるりと心地よいごはんが食卓に並びます。そしてもうひとつ、この時季に欠かせないのが「盛るうつわ」。どんなうつわに盛るかで、料理の表情も、食卓の空気も大きく変わってくるものです。今回はそんな“夏の麺ごはん”に寄り添ってくれる、渓山窯さんのうつわをあらためてご紹介したいと思います。

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“ちょうどいい”をかたちに

“ちょうどいい”をかたちに

早いもので、気づけばもう7月。日差しは日に日に鋭さを増し、駅まで歩くだけで汗ばむような日が続いています。外の暑さにぐったりしながらも、エアコンのきいた部屋で冷たいお茶を飲むひとときや、夕方になって少しだけ涼しくなる空気に、ふっと癒されるこの季節。暑さに少し疲れてしまう分、家で過ごす何気ない時間のありがたさが、いつも以上に身にしみるような気がします。 そんな7月のはじめ。「marais/マレ」の器に新しく中サイズが仲間入りしました。目立ちすぎず、でも確かにそこにある、そんな静けさをまとったこのシリーズ。

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宮本工芸 アメノイエ

手しごとが紡ぐ、初夏のやさしい時間

先日、街を歩いていて、涼やかなかごバッグを手にした人に目を奪われました。その姿がなんとも素敵で、家に帰ってから「どこのかごなんだろう」と調べていたときに出会ったのが、青森・弘前の「宮本工芸」でした。 天然の蔓を使い、昔ながらの製法で編み上げられたかご。それはただのバッグではなく、使う人の暮らしに静かに寄り添う、やさしい道具のようでした。 宮本工芸の魅力は、かごバッグだけにとどまりません。リビングやキッチン、玄関まわりなど、家のあちこちでそっと役立つ小さなかごたち。お気に入りのクロスを丸めて入れたり、収納用のカゴとして使ったり、インテリアとして暮らしに取り入れる楽しさが詰まっています。

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嘉泉窯 224porcelain

涼やかなうつわとともに、夏を迎える

梅雨が明けると同時に、夏の陽射しがいよいよ本気を出してきました。冷房に頼りきるのではなく、涼しげなうつわを通して季節の移ろいを感じたくなります。 この夏、私の食卓に新たに仲間入りしたのは、長崎と佐賀、それぞれの地で作られたうつわたち。まったく異なる表情を持ちながら、どこか共通して涼しさを感じさせてくれる不思議な存在感があります。 どちらも、佐賀県唐津市を拠点に活躍する陶芸家・岡晋吾さん監修の作品。とろりとした釉薬の質感、機能的で使いやすいフォルム、そして古陶を思わせるやわらかな風合いが、食卓にすっと馴染みます。

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余白をたのしむ、ヴィンテージとの暮らし

余白をたのしむ、ヴィンテージとの暮らし

引っ越しを機に新しい家具を探していた際にお世話になった「wormholefurniture」の牛丸さん。先日、久しぶりにお伺いし、今回は部屋に飾るものや、新しく迎えたい照明についてじっくりと相談させていただきました。変わらぬ穏やかな空気と、迎え入れてくれる空間の美しさに、改めて胸が高鳴りました。たくさんのヴィンテージ品を前に、昔の人はこれを何に使っていたのだろう、これはこの時代だからこそ生まれた美しさの感覚なのだろうなと、思わず想いを馳せるような時間でした。

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日々慌ただしい父へ、丁寧なコーヒー時間を贈る

日々慌ただしい父へ、丁寧なコーヒー時間を贈る

6月15日は父の日。 梅雨の気配が漂いはじめるころ、ふと、父の背中を思い出します。晴れ間の恋しいこの季節にやってくる父の日は、どこか落ち着いた静けさと、感謝の気持ちがじんわりと染みわたるような、そんな特別な1日です。 毎年、何を贈ろうかと悩むけれど、今年はひとつのアイデアが浮かびました。 コーヒー好きの父に「時間を贈る」のはどうだろう? そんな思いから、お父さんの過ごし方を思い浮かべながら、いくつかのシーンを想像してみました。

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「使い方いろいろ」そば猪口で広がる食卓の彩り

「使い方いろいろ」そば猪口で広がる食卓の彩り

夏めき始めた五月後半。まだ本格的な夏というほどではないものの、少しずつ暑さを感じるようになると、さっぱりとしたものが無性に恋しくなってきます。 そんな折、冷たいざる蕎麦が無性に食べたくなりました。薬味をたっぷりのせて、冷たいつゆにくぐらせていただく一口は、体にも心にもじんわりと染み渡るようで、自然とその味わいが思い浮かびます。お蕎麦を想像をしていると、家に「これぞ」というそば猪口がないことに気づき、探してみることにしました。

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