
包むことからはじまる物語
神楽坂で暮らしはじめて、もう一年。
ひとつ、またひとつと“オキニイリ”を迎え入れ、静かに暮らしを紡いできました。
プレートやボウル、茶碗やどんぶり、そしてマグ。
暮らしの中で少しずつ増えていったうつわたちが、静かに棚に並び、それぞれが小さな物語を重ねています。
これまでは自分の暮らしの中で、その手ざわりや景色を味わってきました。
けれど、あるときふと、「このすてきなうつわたちを、もっとたくさんの人に使ってほしい」と思うようになりました。
暮らしの中で感じた小さなよろこびを、誰かと分かち合いたい。そんな気持ちが芽生えてきたのです。
オクリモノの準備をしていると、ものを選ぶ時間や包む仕草そのものが、贈ることの一部であることに改めて気づきます。
せっかくなら、中身だけでなく「包むもの」にも小さな物語や願いをそっと宿したい。そして受け取る人にも、手にした瞬間からその人だけの物語を紡いでもらえたら。
そんな想いが、心の奥で静かにふくらんでいきました。
やさしい雨の線に込めた想い
そこで、学生時代の友人で、いまはデザインの仕事をしているケンタくんに声をかけました。
“いつか一緒に何かをつくろう”と話していた小さな約束が、今回のギフト包装紙というかたちになって実を結びます。
どんな紙に、何を描くか。
ケンタくんと何度もやり取りを重ねるうちに、私の中でひとつの記憶がよみがえりました。
それは、私が神楽坂に引っ越してきた梅雨のころのことです。
雨にぬれたアジサイ、しっとりと光る石畳。
そのときの神楽坂の景色は、今も胸の奥に鮮やかに残っています。
静かな路地を抜けてたどり着いたのが、今の家でした。
家の前には水盤があり、その美しさに思わず心を奪われました。
雨粒がつくる波紋がなんともきれいで、迷うことなくここで暮らそうと自然に心が決まったのです。
まるで雨がそっと背中を押してくれたかのようでした。
これが、私の“雨”の記憶の原点です。
そのときの美しい記憶をずっと残しておきたい。
そんな思いもあって、オクリモノを包む紙には「雨」のイメージを選びました。
それから数日後、ケンタくんがすてきな言葉を添えて、できあがったデザインを見せてくれました。
雨粒は大地を潤し、命を育むしずく。
繰り返されるそのやさしいリズムは、自然が刻む心地よい呼吸のよう。
ひと目で、そのやわらかな美しさに心を奪われました。
その繊細な雨の線は、一見すると整った模様に見えますが、近づいてよく見ると筆のかすれや色の濃淡がにじみ、ひとつとして同じ線はありません。
「受け取る人に静かな潤いとあたたかさが届くように。」
そんなケンタくんの願いが、紙いっぱいに散りばめられています。
その仕上がりを見た瞬間、「これだ」と思いました。
やさしい雨のリズムそのものが、私のオクリモノにぴったりだと感じたのです。
水色のリボンがつなぐ時間
こうして、雨の線をまとった包装紙がかたちになりました。
手に取ると、紙のやわらかな質感とともに、静かに降る雨のリズムが手のひらに伝わってくるようです。
リボンには、淡い水色を選びました。
澄んだ風を運んできてくれるような透明感があり、しっとりとした雨の線をやさしく包み込んでくれます。
誰かのよろこぶ顔を想像しながら、ひとつひとつ丁寧に結ぶそのひとときは、贈る側にとっても静かで豊かな時間です。
このリボンも、季節や贈りものにあわせて、いつか色や素材を変えてみるのも楽しそう。
そんなことを思いながら、ゆっくりと時間が過ぎていきます。

雨の線で彩るラッピング
こうして仕上がったラッピングは、どんなオクリモノにも静かな温もりを添えてくれます。
雨の線をまとった包装紙と淡い水色のリボンは、オクリモノの姿だけでなく、包む人の心もゆっくりと整えてくれるようです。
贈る人の手の中で結ばれ、受け取る人の手の中で解かれる。
その一瞬ごとに、ささやかな物語がそっと生まれていきます。
あなたのオクリモノにも、このラッピングが静かな彩りを添えられたらうれしいです。