気になっていたあの店へ
今日はなんだかお昼を手軽に済ませたい気分。
午前中の仕事をひと区切りつけて外に出ると、神楽坂の通りにはいつもと変わらぬ人の流れがありました。
通りを歩いていると、飲食店からの香りや店先のざわめきがあちこちから漂ってきて、いつもの神楽坂らしい空気にふれるうちに、慌ただしかった気持ちも自然とゆるんでいきます。
ふと、前から気になっていた肉まんのお店を思い出しました。
街歩きの途中で何度か目にしていたけれど、いつか立ち寄ろうと心に留めたままになっていたお店です。
神楽坂駅からほど近い「坂の上交差点」の角地に建つ五十番神楽坂本店。
昭和32年の創業以来、60余年にわたって美食の街で愛され続けてきた老舗中華です。赤い暖簾に大きく書かれた「肉まん」の文字が、坂の上でひときわ目を引きます。

ガラス越しに並ぶごちそう
店内に入ると、ガラスのショーケースには名物の肉まんをはじめ、点心やちまきなどがずらりと並んでいました。
さまざまな具材の肉まんが整然と並び、そのどれもがふっくらと存在感を放っています。
数ある種類の中でも、今日はまず「元祖肉まんミニサイズ」を包んでもらうことにしました。
ミニと名がついていても、コンビニの肉まんよりひとまわり大きいくらいのサイズ感。厳選された国産豚肉を100%使用した、五十番を代表する看板商品です。
そしてもうひとつ選んだのが、竹の葉に包まれた「ちまき」。
国産もち米に角煮や椎茸、銀杏が入り、お出汁のやさしい味わいが想像できるひと品です。

お気に入りのせいろとともに
家に帰って、さっそくせいろを取り出しました。
愛用しているのは、山一さんの21cmせいろ。大ぶりな肉まんが二つ並んで入る、使いやすくちょうどいいサイズです。
温めるだけのシンプルな工程も、せいろを使うことで丁寧な時間に変わります。
簡単に済ませようと思っていたお昼ごはんが、一気に「待ち遠しい時間」へ。
小さな高揚感に包まれながら、蒸す支度にとりかかります。

蒸す前の小さなひと手間
蒸す前に欠かせないのが、せいろを水にくぐらせるひと手間です。全体をしっかり濡らしておかないと、乾いた部分が焦げてしまうことがあります。
水を含んだせいろは、しっとりと重みを増し、頼もしい調理道具の表情に変わっていきます。布巾で軽く余分な水を拭き取れば、あとはお湯が沸くのを待つだけ。
電子レンジなら数分でさっと温められますが、こうしてひと手間をかける時間そのものが、暮らしのリズムをゆるやかに整えてくれるように思います。
鍋の中でじわじわとお湯が温まってきました。

まるでできたて
せいろに肉まんをそっと並べ、鍋の上に重ねます。
ふたの隙間から細やかな湯気が立ちのぼり、台所全体がやさしい熱気に包まれていきました。せいろの中でじんわりと蒸気がまわり込み、静かな時間が流れていきます。
10分ほど待ち、ふたを開けると、つややかでふっくらとした肉まんの完成です。
蒸気が生地の内側にまでしみ込み、温める前よりひと回り大きくなったかのよう。電子レンジで温めたときのように表面が硬くなったり、中が冷たいままだったりすることはなく、まるで作りたてのように仕上がっています。
皮を割ると、もちもちとした生地の中から豚肉の旨みがじゅわっとあふれ、豊かな香りが立ちのぼります。ひと口頬ばれば、その旨みが口いっぱいに広がり、温め直しだとは思えない満ち足りた味わいです。

ちまきで締めくくる
せいろで温め直したちまきも、また格別でした。
竹の葉をほどくとふわりと広がる香り。
お出汁の色に染まったもち米はつややかで、口に運べば角煮や椎茸の旨み、銀杏のほろ苦さが重なり合い、やさしい余韻が残ります。
また次回お店に伺う際は、ちょっとめずらしい味にも手を伸ばしてみたくなりました。
秋も深まって、あたたかい食べ物が恋しくなるこれからの季節。
みなさんも、ぜひ五十番神楽坂本店へ足を運んでみてくださいね。