長野の味と、道具の美しさを食卓に
先日、長野県の安曇野へ旅に出かけました。
山あいの空気は少しひんやりとしていて、深く息を吸うたびに、体の奥がゆるやかにほどけていくような感覚。
立ち寄った道の駅では、地元の野菜や果物にまじって、美しく並んだ乾麺のそばが目にとまりました。
石臼で挽いたような香りがしそうな、素朴で誠実なパッケージ。
迷うことなく手に取り、お土産に。
帰ってきた週末、そのおそばを茹でて、お昼に「とろろそば」に。
すり鉢を取り出し、長芋を擦る時間も、旅の余韻のように静かで穏やか。
音、香り、手の感触。
ひとつひとつが心地よくて、「こういう時間こそが、生活の真ん中にあってほしいものだな」と、ふと思いました。
すり鉢は、道具であり、うつわ
こちらのすり鉢は、すり鉢専門の窯元「ヤマセ製陶所」と、陶芸家・冨本大輔さんが手がけたもの。
調理器具としての機能に加え、うつわとしての美しさも兼ね備えた、特別な一品です。
色は黒とブルーグレーの2色。
黒は、ざらりとしたマットな質感が魅力で、落ち着いた存在感を食卓に添えてくれます。
新しく仲間入りしたブルーグレーは、光をやわらかく受ける艶やかな質感で、凛とした華やかさをまとった佇まい。
どちらも、料理の景色に静かに寄り添いながら、確かな個性を放ちます。
ざらりとした陶肌に、内側へ丁寧に刻まれた櫛目(くしめ)は、長芋やごまなどをしっかり受け止め、なめらかにすりおろしてくれる頼もしい構造。
そして何より嬉しいのは、擦ったまま、そのまま器として使えること。
とろろを擦ったら、そのままそばに添えるだけで、きれいな一皿が完成します。
忙しい日々の中でも、ほんの少しの手間が食卓に豊かさを連れてきてくれる、
機能と美しさを備えた、頼れる道具です。
暮らしの中で、“道具”を楽しむ
「削る」「擦る」など、ほんの少し手をかける調理の工程は、忙しい日々のなかでつい省いてしまいがちです。
でも、そのひと手間こそが、素材本来の美味しさや、食感の違いを引き出してくれるように感じます。
市販のとろろも手軽で便利だけれど、自分で擦った長芋の、ふわりとした口あたりはやっぱり格別。
そのやさしい味わいが、手間をかけたぶんだけ、心にも染みるように感じられます。
そんな小さな料理の背中をそっと押してくれるのが、「機能美を宿した道具」の存在です。
使うものや、食べるものをほんの少し丁寧に選ぶだけで、食卓はもっと自由に、もっと豊かに広がっていきます。
旅の味とともに、日々の暮らしへ
とろろそばのやさしい味に、旅で見た風景がそっと重なります。
山を抜ける風、木々の揺れる音、道の駅のにぎわい。
長芋を擦るときの音や手の感触も、そんな記憶とともに、少しずつ日々の暮らしの中に溶け込んでいくようです。
調理器具でありながら、器としても美しい、新しいかたちのすり鉢。
本物の素材を味わいたい方に、手仕事のぬくもりに触れたい方に、そっと寄り添ってくれる一品です。
旅の余韻が、暮らしの中で静かに続くように。
「また旅に出る日が来たら、どんな旬に出会えるだろう」
そんな小さな楽しみが、今日という日を、すこし豊かにしてくれます。