ヒビノコト

「アメノイエの住人」雨野紡が日々の暮らしを綴る日記です。
家の中での過ごし方や産地での出会いをこちらでご紹介します。

ヒビノコト

あり合わせでごちそうを
ダイドコロ チャノマ

あり合わせでごちそうを

冷蔵庫と相談 休日の午前中。 残っていた仕事を家で片付けてパソコンを閉じると、時刻はもうお昼を回ろうとしています。 ここ最近の慌ただしさからふっと解放されて、今日はどこへも出かけず、このまま家でゆっくりと過ごしたい気分。家にあるもので何か美味しいものは作れないかと、冷蔵庫と相談です。  そろそろ使ってしまいたい玉ねぎや人参、それに使いかけの鶏肉が残っていました。戸棚の奥で目が合ったのは、いつか買ったトマト缶。  「よし、野菜たっぷりのトマトカレーを作ろう」  からだが求めているのは、こういう栄養満点の一皿かもしれません。 そうと決めたら、無水鍋を取り出します。  私が愛用しているのは、HALムスイの20cm。二人暮らしにちょうどいいサイズです。 我が家に迎えて1年が経ちましたが、「炊く・蒸す・煮る・茹でる・焼く・炒める・揚げる・天火」なんでもこなす万能選手で、すっかり頼れる相棒になりました。   野菜の栄養を閉じ込める この鍋の良さは、やっぱりその名の通り「無水調理」ができること。 厚みのあるアルミ鋳物が熱をしっかりと閉じ込め、強火で煮立てずとも、やさしい熱で食材全体を均一に煮ることができ、素材を壊さず、本来の栄養を引き出せるのです。 まずは中火弱でじっくり予熱を。 食材をくっつきにくくするための、大切なひと手間です。 指先につけた水滴を落とし、丸い水玉になって転がるのを確認したら、準備万端のサイン。 オリーブオイルににんにくを入れて香りを立たせ、あり合わせの鶏肉と野菜を炒めたら、そこへトマト缶を余さず入れます。水は一滴も足しません。 材料をすべて入れたら、ずっしりとした蓋を閉めます。 隙間なく吸い付くように合わさる感覚に、職人技の精緻さを感じる瞬間です。 この「蒸気密封」こそが、栄養素を逃さないための鍵。 水に溶け出しやすいビタミンやミネラルを外に逃がさず、素材同士の旨みとともに鍋の中で調和していきます。  蓋が小さな音を立て始めたら沸騰の合図。あとは火を弱めて、30分ほど鍋におまかせです。   炊き置きごはんと、私の習慣  カレーを煮込んでいる間に、ご飯の準備に取り掛かります。 実は白米も、昨日この無水鍋で炊いたもの。数日分をまとめて炊いてストックしておくのが、我が家のリズムです。 もともとお米を炊くために開発されたというだけあって、その実力は折り紙付き。浸水させてから火にかけて10分、そのまま10分蒸らすだけで、あっという間にふっくらと炊きあがります。 土鍋ご飯も好きなのですが、仕事の日など日常使いには、この無水鍋が活躍することが多いです。  ...

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「植物で洗う」という心地よさ
オフロ ナカマイリ

「植物で洗う」という心地よさ

春の光と、肌のゆらぎ 春は、光や風がやわらかくて、一番好きな季節。 窓を開けて新しい空気を吸い込むだけで、気持ちまでふっと軽くなるのを感じます。 けれどその一方で、私の肌は少しゆらぎ気味。 ふと頬に触れるといつもよりカサついていたり、昨日まで普通に使っていた洗顔料がピリついたり。  「肌が疲れているんだな」 そんな体からのサインを受け止めて、日々のスキンケアを一度見直してみることにしました。   食べるものを選ぶように いろいろと探しているなかで出会ったのが、「石鹸屋りーふ」さんの和漢植物石鹸。「食べるものを選ぶように、石鹸も選びたい」という想いから始まった、実直なものづくりに心惹かれました。 その想いの根底にあるのは、鈴木さんご自身が経験した、ある切実な日々。 当たり前に使っていた市販品が、ある時期を境に突然、からだに合わなくなってしまい、手のひらが真っ赤に腫れたり、お風呂上がりなのに痒みが引かなかったり…。そんななかで、「自分のからだが安心できるものを」と自ら石鹸を手作りしてみたことが、きっかけだったそうです。 実は私も同じような経験があります。 気づかないうちに体調によって、添加物にからだが反応してしまうのでしょうか。そんな鈴木さんがかつて感じた違和感に、自分を強く重ねてしまいました。 毎日直接肌に触れるものだからこそ、その時々のからだの声を聞きながら、食べ物と同じ感覚で選びたい。そんな当たり前でいて何より大切な原点に、私を立ち返らせてくれた気がします。   時間をかけて引き出す、植物の力  りーふさんの石鹸は、熱を加えない「コールドプロセス製法」で作られています。あえて熱を加えず、一ヶ月以上もの時間をかけてじっくりと熟成させることで、天然油や和漢植物が持つ保湿成分を壊さず、そのまま閉じ込めることができるのだとか。 防腐剤や合成香料といった余計なものは一切使わず、品質や安全性にどこまでも真面目に向き合う。そんなご自身の経験に裏打ちされた真っ直ぐな姿勢があるからこそ、揺らぎがちな敏感肌も、赤ちゃんの柔らかな肌も、安心して託すことができるのだと感じています。   「植物で洗うと、ずっと、いい。」 このキャッチコピーも、スッと心に入ってきました。 もともとアロマやハーブティーが好きで、植物の力を信じている私にとって、これはもう暮らしに取り入れない手はありません。   大人の肌に、濃紫 まず手に取ったのは、「濃紫(むらさき)」。紫草の根である「紫根(シコン)」の力を宿した、高貴で深い色合いの石鹸です。肌の生まれ変わりを健やかに整えてくれるという紫根は、大人の肌のエイジングケアにも心強い味方。 「エキゾチックな香り」って、一体どんな感じだろう。 期待を込めて泡立てると、立ち上ってきたのは、どこか懐かしくも凛とした匂い。 ベルガモットのすっきりとした爽やかさの奥に、フランキンセンスの静けさや、パチョリの深い土の気配がそっと重なっている。 アロマ好きにはたまらない、思わず深呼吸したくなるような奥深さです。...

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つい手に取ってしまう、小皿のはなし。
チャノマ

つい手に取ってしまう、小皿のはなし。

つい集めてしまう理由 食器棚を開けると、いつの間にか増えている小皿たち。窯元さんに制作いただいたものや、旅先で出会ったもの。重なり合ううつわを眺めていると、それぞれを迎え入れた日のことを思い出します。 そんな私の「小皿好き」の根っこには、実家の食卓の記憶があるのかもしれません。 子どもの頃、実家の食器棚には家族の人数分揃った取り皿がいくつも並んでいました。夕飯の時間になると、母がそれらを取り出して、おかずを一つひとつ丁寧によそってくれる。うつわ好きだった母が選ぶ一枚一枚で、食卓の景色が少しずつ変わっていくのを眺めるのが、子ども心に楽しみでした。 そんな記憶が染み付いているからか、私自身もすっかりうつわが好きで、特に小皿にはつい手が伸びてしまいます。 大きな皿は、収納場所や使い道を考えてつい慎重になりますが、小さな皿なら「いいな」と思えるものに出会うたびに、つい気軽に迎え入れてしまいます。重ねてしまえば場所も取らず、副菜からお菓子まで何にでも合う。 そんな自由さが、つい集めてしまう理由なのだと思います。   食卓にリズムを、もてなしの小皿 ワンプレートで手軽に済ませる日もありますが、いくつかの小皿が並ぶ食卓は、それだけで視覚的なリズムが生まれて、景色が華やぎます。 友人たちを招くことがよくありますが、大皿の料理をそれぞれが自分の小皿へ移し、お喋りしながら自分のペースで味わう時間は、もてなす側の私にとっても気負いがなくて心地いいものです。 5寸前後のサイズは、取り皿としても副菜用としても一番使い勝手がよく、いくつあっても困りません。お気に入りが少しずつ増えるたびに、次のおもてなしではどんな組み合わせで並べようかと、そんなささやかな計画を立てるのも、私の密かな楽しみになっています。    おやつの時間を心地よく 私が日常でよく手に取るのが、「fog プレート 15cm WHITE」です。 ほんのりとグレーを帯びた、霧がかったようなやわらかな白。シンプルでありながら食卓に静かな落ち着きを添えてくれます。 艶やかなブルーベリータルトをのせてみると、うつわの白が果実の深い色を引き立てて、それだけで自然とテーブルの上が整った印象になります。 一人の時間に、淹れたての珈琲と一緒に自分だけのために使うのにも、ちょうどいい一枚です。   磁器で愉しむ、多彩な表情 磁器の小皿は、なめらかな質感と端正なフォルムが、のせたものを品よく見せてくれます。 柏餅をのせてお茶を淹れる午後。涼やかな白磁が柏葉の緑を引き立て、慌ただしい日常のなかに静かな時間が流れるのを感じます。   夜になれば、そのまま晩ごはんの食卓へ。菊割や四稜など、形の異なる小皿を並べるのも楽しみのひとつです。和え物やお刺身はもちろん、洋の食材を合わせてもすんなり馴染むのは、磁器ならではの懐の深さ。  汚れが落ちやすく扱いやすい頼もしさもあり、気負わず毎日のように手に取っています。   シーンを問わず使えるうつわ...

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花好きな母へ贈りたいもの
オクリモノ

花好きな母へ贈りたいもの

花に触れる母を想って 今年の母の日は5月10日。カレンダーを眺めながら、そろそろ母の日の贈り物を考え始めます。 「いつもありがとう」のひと言は、いざ目の前にするとなんだか照れくさくて、うまく言えないもので。だからせめて、年に一度のこの日には、想いを贈り物に託したいなと思うのです。 母は花がとても好きで、庭先のプランターに季節の花を植えたり、習い事の生け花を飾ったり。 思い返せば、実家にはいつも当たり前のように植物の姿がありました。 花を慈しむ母の背中を見て育ったからか、私の暮らしのなかにも自然と花や緑がある。 今年は、そんな花好きな母の顔を思い浮かべながら、日々の風景に寄り添う花器を贈ろうかなと考えています。   挿すだけで美しく整う「3RD CERAMICS」 3RD CERAMICSの花器は、私の暮らしにも欠かせない道具のひとつ。  全サイズを愛用していますが、どれも本当に使いやすくて、サイズ選びが難しいところです。枝ものも好きな母には、お花はもちろん、小ぶりな枝ものもしっかりと受け止めてくれるMサイズがいいかなと思っています。 この花器の何よりの魅力は、キュッと絞られた細い口元。 花や枝が散らばらず、挿すだけでスッといい感じの位置に収まってくれるのです。 手触りも心地よく、土の細かな粒子を感じる、焼き締めならではの質感。端正な佇まいは、季節や場所を選ばず、いつも凛とした存在感です。   光の移ろいを愉しむ「菊地大護さんの花器」 次に候補に浮かんだのは、菊地大護さんのガラスベース。 ほんのりと色づいた淡いピンク色のガラスと、ぷっくりとしたフォルムが印象的。 ただそこにあるだけで、周りの空気がふわりと柔らかくなります。 ガラス越しに透ける涼やかな水と、そこへすっと伸びる茎のラインまで美しくて。生けた植物たちもどこか心地よさそうで、のびのびと深呼吸しているように見えてきます。 朝の澄んだ光、夕方の傾いた日差し。 差し込む光の角度によって、透き通るガラスの表情や落ちる影も少しずつ変化していく。 花そのものだけでなく、時間ごとに移り変わる景色ごと楽しめるのも、この花器の大きな魅力です。   標本のように彩る「新見和也さんの花器」 最後は、新見さんの花器。 柔らかな曲線と、モダンな直線。その絶妙なバランスに、思わず目が留まります。 建築や日々の何気ないモノからインスピレーションを得ているという新見さんの作品は、多彩なカタチで私たちを楽しませてくれます。...

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香りがつくる、目に見えない心地よさ
イマ

香りがつくる、目に見えない心地よさ

空間の印象をつくるもの 部屋の空気を少し変えたくなったとき、新しい花器を置いてみたり、お気に入りの作家さんのうつわを並べてみたり。つい「目に見えるもの」に手を伸ばしたくなります。けれど、香りもまた、空間の印象を静かにかたちづくっているように思います。 例えば、朝一番に窓を開けて空気を入れ替えたあと、仕上げにシュッとひと吹きするフレグランス。あるいは、仕事から戻ってきて、オンからオフへと気持ちを切り替えたいときに選ぶ香り。 それは、お気に入りの服を着るのと同じように、その時の自分の心に寄り添う「空気」を纏うような感覚です。家具や雑貨のように形があるわけではないけれど、香りは一番身近で、一番軽やかな「暮らしの道具」なのかもしれません。   暮らしの中で、自然と手に取る香り そんな私の暮らしに、いつの間にか馴染んでいるのが「kibn」のフレグランススプレー。 気づけばもう2年ほど、ずっと使い続けています。  なくなるたびに別の香りも気になりながら、結局またお迎えしてしまう。いつの間にか、私にとってあって当たり前な存在になっていました。 朝、空気を入れ替えたあとに手に取るのは、決まって「Dsus4」。 ヒノキやパロサントの静かな樹木の香りに、ライムやペパーミントの清涼感が重なります。 どこか凛とした、背筋が真っ直ぐに伸びるような心地よい香りで、 仕事の合間や静かに自分と向き合いたいときにも寄り添ってくれます。 少し気分を上向きに、華やかにしたいときは、「G♭maj9」を。 ベルガモットの爽やかな入り口から、ヒバやパチョリ、ベニバナなど、次第に複雑で奥行きのある香りが広がります。 落ち着きの中に、やわらかな高揚感を感じさせてくれるから、少しだけ背中を押してほしいときに。 その日の気分に問いかけながら、どちらにするか選ぶひとときも、ささやかな楽しみになっています。   物語を運んでくる香り 昨年の秋、Lunefの調香師の安藤さんにアメノイエのオリジナルの香りを作っていただき、それをきっかけに、Lunefの香りもいくつか手元に迎え、選ぶ楽しみが増えました。 ヒビノコト Vol.53 Lunef × アメノイエ -オリジナルフレグランス-   雨に濡れた森の中、月の光が落とす影をイメージしたという「Lunef」。 ジャスミンやネロリが、ベチバーやセダーの深い樹木の中に静かに溶け込んでいて、夜の静寂によく合います。 「Jardin」は、光をたっぷり浴びた緑と、花々を束ねたブリキのバケツを思わせる、みずみずしい香り。...

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しつらえのヒントは、日々のなかに
イマ

しつらえのヒントは、日々のなかに

つい、迎え入れてしまうもの 街を歩いているとき、ふと視線が止まることがあります。それは決して大きなものではなく、静かに佇む小さな家具。 日々のなかにも、あちらこちらにインテリアのヒントが散りばめられています。なかでも心が引き寄せられるのは、ご飯屋さんのしつらえです。 限られた空間のなかに、店主のこだわりが丁寧に詰め込まれていて、小さな家具の使い方にも、さりげない工夫が感じられます。 店内の隅々まで視線を巡らせる時間は、わたしにとって、この上ない楽しみのひとつです。 どこかで見かけた一脚の椅子が、ふと記憶に残り続けることがあります。人の手に選ばれ、使われてきた痕跡が、そのまま景色の一部になっているからかもしれません。 とりわけ、椅子やスツールには、どこか抗えない引力があるようで、気づけばまた一つ、家に迎え入れてしまいます。大きな家具は簡単には買い替えられないけれど、小さな家具は暮らしのすきまにすっと入り込み、空間の空気をやわらかく変えてくれる存在です。   用途を決めすぎないということ 椅子は、座るためのもの。そう言い切ってしまうには、少し惜しい存在です。 ヨーロッパの古い暮らしの中では、椅子は“可動する家具”として、部屋から部屋へと持ち運ばれ、その時々の用途に応じて使われてきたといいます。固定されないからこそ、空間にささやかな変化をもたらす存在だったのでしょう。 玄関に置いたスツールに腰をかけて靴を履く朝。帰宅して、バッグをそっと預ける場所としての一脚。窓辺では、光を受け止める台のように、季節の花の美しさを引き出します。 ときにはサイドテーブルのようにもなり、その時々の暮らしに寄り添いながら、自然と役割を変えていきます。 決めすぎないこと。余白を残すこと。その曖昧さこそが、小さな家具の魅力のように思います。   水屋箪笥という軸 家の中で、自然と視線が戻る場所があります。それが、わたしにとっての水屋箪笥です。 水屋箪笥はもともと、食器や調理道具を収めるための収納家具として、日本の暮らしの中で使われてきました。地域によって素材やつくりが異なり、その土地の気候や文化が反映されているのも興味深いところです。 木そのものの色味を活かした佇まいだったものを、「Wormhole Furniture」の牛丸さんに黒く塗装していただきました。 モルタルの空間に黒の家具が加わることで、空気がすっと引き締まり、空間に輪郭が生まれます。 うつわは気づけば少しずつ増えていき、かたちも素材もさまざま。だからこそ、それらを分け隔てなく受け止めてくれる、ギャラリーのような棚が欲しかったのです。 この水屋箪笥に出会えたとき、探していたものにようやく触れられたような、確かな喜びがありました。なかなか巡り合えないサイズと佇まいに、どこか縁のようなものを感じたのを覚えています。   出会うまで待つという選択 神楽坂に越してくる前は、とりあえずの家具で暮らしていた時期もありました。けれど今は、「出会うまで待つ」という選び方に変わっています。 編集の仕事をしていると、「選ぶ」という行為の積み重ねで一冊ができていくことを実感します。何を残して、何を手放すのか。その基準は、ほんのわずかな違和感や確信だったりします。 すぐに手に入る安心よりも、時間をかけて見つける納得を。限られた空間だからこそ、長く寄り添えるものだけを選んでいきたいと思うようになりました。 少しずつ揃っていく家具たちは、暮らしの景色を整えると同時に、自分自身の感覚も整えてくれるように感じています。  ...

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「和食を作る日が増えました」%世田谷・yup!さんと大黒屋の箸
ツナガリ

「和食を作る日が増えました」
世田谷・yup!さんと大黒屋の箸

世田谷の穏やかな街並みを歩いていると、ふわりと香ばしいコーヒーの匂いが漂ってきました。コンクリートと木の温もりが調和した、オープンな造りの入り口で、一樹さんと百絵さんがいつもの明るい笑顔で迎えてくれます。 ここ「yup!(ヤップ)」は、コーヒーとクラフトビール、自家製のドーナツやミード(蜂蜜酒)を楽しめるお店。   ふっくらとしたドーナツが並ぶショーケースのすぐ後ろで美味しそうなビールが注がれる。一見意外に思えるこの組み合わせも、すんなりと景色に溶け込んでしまうから不思議です。 フードは百絵さん、ドリンクと心地よい音楽のセレクトは一樹さんという、お二人の絶妙なハーモニーでこの温かい空間が作られています。   ビール好きの友人を通じて仲良くなった一樹さんと百絵さん。 ある日お二人から「なかなかお店に置く理想のお箸に出会えなくて…」という相談を受け、自信を持っておすすめしたのが、大黒屋の箸でした。それを一目で気に入って、お店用にとお迎えしてくれたお二人。 その後、実際の使い心地はどうだろう。私自身も愛用しているものだからこそ、そのよさを改めて一緒に語り合えればと、今日はお店の「まかないの時間」にお邪魔させてもらうことにしました。   「よかったら、一杯どうですか?」 カウンターに腰を下ろすと、一樹さんがさっそくクラフトビールを注いでくれることに。普段はとても穏やかで話し上手な一樹さんですが、サーバーのタップを握った瞬間、スッと職人のスイッチが入ったような真剣な表情に変わるのがとても印象的でした。   きめ細やかな泡とともに、丁寧に注がれていく黄金色の一杯。その華やかな香りと心地よい喉越しを堪能していると、奥からなんとも美味しそうな匂いが漂ってきました。百絵さんの手がけるまかないのできあがりです。   まかないの時間 雨野  「今日のまかないは、なんですか?」 百絵さん「今日はアジフライです。あとは冷奴と菜の花とわかめのお味噌汁ですね。」   目の前に並んだのは、まかないとは思えないほど豪華な食卓でした。主役のアジフライの横には、さらりとみょうがのフライも添えられて、まるでお店の定食のよう。 雨野  「冷奴の上にのっているものは何ですか?」 百絵さん「時々お店でおでんを出すことがあるんですけど、その出汁を取ったあとの鰹節を炒って、刻んだみょうがとお醤油を和えたものです。」 役目を終えた食材を、こうして余すことなく自分たちのまかないに繋いでいく。百絵さんの料理の腕前と、食材への優しい眼差しがひしひしと伝わってきます。   「これだ」と思えた箸 一樹さん・百絵さん:「いただきます」 お箸でサクッとアジフライを切り分け、美味しそうに頬張るお二人。その姿を眺めながら、さっそく使い心地を聞いてみました。 雨野    「実際にお箸を使ってみて、いかがですか?」 一樹さん「めっちゃいいっす。本当に、お箸が上手に使えるというか」...

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カゴがよく似合う季節になりました
キセツ

カゴがよく似合う季節になりました

私のオキニイリのカゴ 春はもうすぐそこまで来ているようです。窓から入る風にもどこか軽やかな気配が混じりはじめました。 厚手のブランケットや毛布もそろそろしまおうかと思いながらも、まだ朝晩は冷えて少し悩ましいこの頃。それでも、洋服も家の中も、少しずつ春仕様に整えていきたくなる季節です。 暖かくなってくると、なぜだかカゴを手に取りたくなります。もともとカゴが大好きで、気づけば家のあちこちに置いてあります。キッチンやリビングの棚、そして玄関の片隅にも。いったい何個持っているのか、自分でも分からなくなるくらい、いつの間にか増えてしまいました。それでも不思議と、同じ表情のものはひとつもなく、編み方や素材、形が少し変わるだけで、それぞれに違う空気をまとっています。 今日は、その中でも特にお気に入りのカゴをご紹介したいと思います。   部屋でも外でも、頼れるバスケット 普段は、リネン類を整えたり、お茶セットをまとめたり。 部屋の収納として活躍してくれているのが、南風工藝のバスケットです。 竹の凛とした質感は、散らかりがちな日用品もすっきりと見せてくれるのでとても気に入っています。   蓋なしのタイプもありますが、私はピクニックが好きなので、外へ持ち出すことも考えて蓋付きのものを選びました。 おやつや飲みものをパパっと詰め込むだけで、気軽にピクニックの準備が整います。   竹の盛篭 こちらは南風工藝の盛篭。 同じ竹でも、形や編み方が変わるだけで、こんなにも雰囲気が変わるのが面白いところです。 底から縁にかけて交差しながら広がる網目は、どこか軽やかで、やさしい表情。整然とした編み目からは職人の丁寧な手仕事が静かに伝わってきます。 果物を入れたり、お煎餅の袋を置いておいたり。この美しい竹の編み目が、何を入れても整って見せてくれるのです。   おむすびを、一番おいしい状態で 「おにぎり入」という名前がまさにぴったりな、この小さなカゴ。 竹は通気性があり蒸れにくいので、おにぎりがべたつきにくく、ピクニックでお弁当を持っていくときにはバスケットとセットで登場します。   散らばりがちな文房具などの小物入れとしてもちょうどよく、何個もほしくなってしまうサイズ感です。   飴色に育てていく、あけびのカゴ 大好きなあけびのカゴは、気づけば大中小すべてのサイズを揃えてしまいました。 あけびは、使ううちに手の油や空気に触れて、だんだん深い飴色に変わっていく素材です。 型崩れしにくくて水にも強いので、気負わず使えるのが魅力。まさに「育てていく道具」という感じで、数年後の色艶が今から楽しみです。...

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旅立つ人へ贈りたいもの
オクリモノ

旅立つ人へ贈りたいもの

やわらかな光と春の足音 三月になり、窓から差し込む光が少しずつやわらかくほどけていくように感じます。家の窓から見える枝垂れ桜にもいつの間にかたくさんの蕾がつき、日に日にふっくらと膨らんでいく様子を眺めるのが、ここ最近のささやかな楽しみです。 そんな些細な変化に心が躍る季節ですが、この時期はどうしてもお別れが重なるもの。長年お世話になった仕事仲間や友人が、遠くの街へ引っ越していくことになりました。 寂しさを堪え、新しい環境へと飛び出していく大切な人の門出には、心からのエールを込めてとっておきのものを贈りたい。そんな気持ちが自然と湧いてくるのです。  お世話になった仲間たちのこれからの暮らしを想像しながら、じっくりと贈り物を選びました。   光を楽しむ、はじまりのグラス おうち時間が好きな会社の先輩にはグラスがよさそうです。  刺激に満ちた毎日のなかで、ふと息をつきたくなるときもあるはず。 そんなとき、とびきりの一脚が傍らにあれば、きっと心を豊かに整えてくれると思うのです。 菊地大護さんのグラスは、淡いピンク色のやわらかなゆらぎが何よりの魅力。窓から差し込む光を掬い取るようにして、テーブルの上に水面のような影を落とします。その景色は、眺めているだけで飽きることがありません。   食のプロたちに長年愛されている木村硝子店のグラスもいいですね。直線的なフォルムが印象的な「ろーたす」は、どんな飲み物もすっと受け入れてくれるので、ワインはもちろん、アイスコーヒーやお茶、お水などにも。   洋梨のようなフォルムが可愛らしい「ぺあ」は、会社のおしゃれな先輩に選びました。ステムが短いので普段使いしやすく、炭酸水やビールもぺあに注ぐだけでいつもと少し違った雰囲気に。パフェを入れても楽しめる、個性的ながらも万能なグラスなのです。 あの人にはこの形が似合うかなと、贈る相手の顔を思い浮かべながら選ぶひととき。 お別れは寂しいけれど、新しい暮らしに寄り添う姿を想像すると、自然とあたたかい気持ちになれますね。   香りと手触りを贈る お世話になった取引先の方には、ハンドソープとハンドタオルのセットを。 実用的ながらも日常の質を変えてくれる、kibnのハンドソープと、kontexのワッフルタオルの組み合わせです。 自然をたっぷり感じられるkibnの香りが好きで、よく贈り物に選ぶアイテム。樹木やハーブの中にほんのりとさわやかな柑橘が香り、男性にも女性にも喜んでいただくことが多いです。   合わせたのは、kontexのワッフルハンドタオル。大きめな凹凸がやさしく手になじみ、使うほどにふんわりと柔らかさが増していく、私のお気に入りのタオルです。 毎日の何気ない手洗いが、つい深呼吸したくなるような時間へと変わる。新しい環境のなかでも、肩の力を抜くきっかけになってほしいなと思います。   花を一輪、暮らしの景色に 親しい友人には、新見和也さんの花器を贈ろうと決めていました。  引越しをしたばかりの部屋というのは、ダンボールが片付いても、どこかよそよそしくて落ち着かないもの。 そんなまだ慣れない空間の緊張を少しでもやわらげてほしくて、彼女が好きなドライフラワーを一輪挿して手渡すつもりです。...

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漆で愉しむ、桃の節句。
キセツ チャノマ

漆で愉しむ、桃の節句。

桃の花に、せかされて あっという間に二月も終わろうとしています。仕事帰りにふらりと立ち寄った駅前の花屋には、まだ冷たい風のなか、春の枝ものがずらりと並んでいました。中でも目を引いたのは、鮮やかなピンク色の桃の花。まだ冬の気配が残る景色の中で、季節が静かに動き出していることを教えてくれるようでした。 ちょうど見頃を迎えた華やかな枝に惹かれつつも、手にとったのはまだ蕾の多いもの。家のなかで少しずつほころんでいく様子を眺めたかったからです。 「桃の節句」は、もともと季節の変わり目に邪気を払う行事なのだとか。子どもの成長を祝うイメージが強いですが、大人になった今でも、自分のために季節の節目を整える日として大切にしたいなと思うのです。 節句は来週ですが、当日は仕事の予定。 ゆっくり食卓を整える時間が取れそうになかったので、今年は少し早めに楽しむことにしました。   暮らしに馴染んできた、漆器たち せっかくの節句なので、今日はお気に入りの漆のうつわで食卓を彩りたいと思います。キッチンの奥の棚から取り出したのは、お正月以来となるお重と漆器椀。蓋をそっと開けると、ほのかに漆の香りが立ち上ります。迎えたばかりの頃のツンとした漆の香りはすっかりやわらいでいました。そんな些細な変化に、道具がわが家の暮らしに馴染み始めている実感が湧いて、なんだか嬉しくなります。 少し小さいかなと思っていた15cm角のお重も、ふたり暮らしには本当に使いやすく、特別な日には欠かせない存在になりました。 今回は、春の華やかな色味をどのように受け止めて、そしてどう映えさせてくれるのか。黒漆のなかに広がる景色を想像するだけで、わくわくしてきます。   黒いお重に映える、ちらし寿司 メインは、やっぱりちらし寿司。 マグロ、サーモン、鯛、いくら、きゅうり、玉子。 食材の色のバランスを確認しながら均等なサイズに揃えていきます。 ちらし寿司は、盛り付けのバランスがすべて。仕切りのない自由なお重の空間に、どう彩りを配置していくか。それは、真っさらなキャンバスに絵を描く作業によく似ています。 微調整しながら、四角い枠の中に少しずつ春を埋めていきます。 吸い込まれるような黒漆の地色は、昼の光の下で食材の色彩を驚くほど鮮明に浮かび上がらせてくれ、まるで宝石箱のようです。黒という色は、一見重厚ですが、最高の「引き立て役」なのだと改めて思います。   はまぐりと菜の花のお吸い物 お重の隣には、はまぐりのお吸い物を添えました。 少し早いこともありお店に並んでいるか不安でしたが、いつものスーパーを覗くと、立派なはまぐりを見つけて迷わずかごに入れたものです。   味付けはシンプルに。昆布とはまぐりから出る出汁に、お酒とお塩をひとつまみだけ。火にかけてしばらくすると「パカッ」と元気な音を立てて殻が開き、ふわりと磯の香りが立ち上ります。 ここに菜の花も加え、やさしいながらも深みのある味わいは、調味料では表現できない、まさに春の一杯です。   少し残った菜の花はお浸しにしていただきます。今回の菜の花はとても新鮮だったようで、苦みが驚くほど少なく、瑞々しさが際立っていました。   季節の移ろいを愉しむ、お茶の時間 食後は、お気に入りの急須でお茶を淹れ、お重のもう一段に忍ばせておいた春の和菓子を堪能しました。あたたかいお茶とたわいもない話でゆったりと過ごす、心ほどけるような午後の時間。...

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光を淹れる、日ノ出ガラスポット
ダイドコロ チャノマ

光を淹れる、日ノ出ガラスポット

春の気配とともに 先日、友人に誘われハーブガーデンを訪れました。少しずつ春をまといはじめた空気のなか、やわらかな陽射しが降り注ぐ園内へ足を踏み入れて大きく深呼吸すると、都内では味わえない澄んだ香りが胸いっぱいに広がります。 天井の高いハウスの中には、緑の道がゆるやかに続いていました。葉の揺れる音や土の匂い、ところどころに差し込む光を感じながら歩いていくと、奥に明るく開けたグロッサリーコーナーがあらわれます。 棚いっぱいに並ぶハーブやスパイス。どこから見ようか迷ってしまうほどの充実ぶりです。 茶葉をひとつずつ確かめるたび、香りの向こうに過ごす時間が思い浮かびます。ジャスミンの豊かな香り、レモングラスの清々しさ、和柑橘のほろ苦い余韻。これからの日々に寄り添う場面を想像しながら、いくつかをお土産に選びました。 愛用のガラスポットの中で、色や香りがほどけていく様子を思い浮かべると、 思わず頬がゆるみます。   茶葉の色と対流が美しく見える、ガラスの魅力 ガラスのポットを使ういちばんの愉しみは、茶葉の表情をそのまま眺められること。湯を注いだ瞬間、眠っていた葉がふわりと目を覚まし、ゆっくりとひらきながらやわらかな流れをつくっていきます。 透明なうつわのなかで光を受けながら巡るその動きは、小さな水の景色を見ているよう。お茶の色はゆっくりと深まり、グラデーションを描いていきます。ゆらりと揺れる茶葉を眺めていると、不思議と呼吸まで整っていくのです。 そして、ガラスという素材の潔さ。香りが移らず、前の一杯の記憶を残さないからこそ、その日の茶葉の個性をまっすぐに受け止めてくれます。 飲む前の支度だったはずの時間が、淹れることから愉しませてくれる。日ノ出ガラスポットは、そんな小さな豊かさを教えてくれる存在です。   今日のお茶はどれにしよう? 選ぶ楽しみ 朝、ポットを食卓に置くと、その日の気分に合う香りを探すように棚を眺めます。茶葉を手に取るたび、湯気の向こうに過ごす時間が思い浮かび、まだ淹れていないのに気持ちが軽くなっていきます。 ジャスミンの花が入った茶葉を選んだ日は、ほんのり甘いエクレアを添えて、ゆっくりとした午後のティータイムを。花の香りが湯気とともに立ちのぼり、なめらかなクリームの余韻と重なります。窓からの光もやわらかくて、時間まで甘く感じられるようでした。 またある日は、きりっと爽やかなレモングラスを。アップルパイを温めて、すっきりとした香りと合わせます。りんごのやさしい酸味とハーブの清涼感が心地よく、気持ちまで整っていくような組み合わせ。 そして在宅の日の午後には、黒文字と和柑橘のノンカフェインティー。静かにデスクへ向かいながら、ふと立ちのぼる香りに肩の力を抜いてもらいます。 お茶を選ぶことは、その日の自分を選ぶことなのかもしれません。   日常に寄り添う、日ノ出ガラスポットという存在 日ノ出ガラスポットは、ただお茶を淹れるための道具、というだけではない気がしています。 透明な佇まいは主張しすぎず、それでいて確かにそこに在り、朝の光も午後の影もそのまま受け止めながら暮らしの景色にすっと溶け込みます。 湯を注ぎ、茶葉がひらき、ゆっくりと巡る。その動きを眺めていると、一杯のお茶の中に、その日の気分や空気がそのまま映り込んでいるように思えるのです。 忙しい日も、少し気持ちが揺れる日も、そのゆらぎを見つめているうちに、急いでいた心がほどけていく。気がつくと、いつもの自分の調子に戻っているように感じます。 香り、色、動き。五感で味わう時間は、決して特別な日のためだけのものではなく、むしろ、何でもない一日をやさしく照らしてくれるもの。 今日もまた、棚の前で立ち止まりながら、「さて、どれにしよう」と小さく考える。そんな時間ごと、このポットは受け止めてくれているのだと思います。  

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時を越えて届くもの。牛丸さんのアトリエを訪ねて
旅日記

時を越えて届くもの。牛丸さんのアトリエを訪ねて

定期的に訪ねたくなる場所 引っ越しを機に、新しい家具を探していた頃。ご縁があって出会ったのが「Wormhole Furniture」の牛丸さんでした。 新生活を始めるにあたり、部屋の雰囲気を決める大切な家具選びで、本当にお世話になった存在です。以前コラムでもご紹介しましたが、引っ越しが一段落した今でも、定期的に牛丸さんのアトリエへ足を運んでいます。 扉を開けるたびに広がる、木の香りと静かな空気。 そこには、長い年月を旅してきた家具たちが、誇らしげでありながらも、どこか慎ましく佇んでいます。木の質感や鉄の重み、使い込まれた表情。それぞれが確かな時間をまといながら、静かに並んでいるのです。 同じ場所なのに、訪れるたびに景色が違う。「今日はどんな出会いがあるだろう」と、自然と足取りが軽くなる。アトリエへ向かう時間は、私にとって小さな宝探しのようなひとときでもあります。   日常を彩る、小さなヴィンテージたち 最初は、ダイニングテーブルや椅子、棚など、大きな家具を揃えることから始まりました。牛丸さんに教えていただきながら、少しずつ家の土台が整い、今では愛着のわく家具に囲まれて暮らしています。 暮らしが落ち着いてくると、次に目が向くのはその“余白”でした。最近の楽しみは、棚にそっと飾る小さなオブジェや、食卓に静かな深みを添えてくれるヴィンテージのうつわを探すこと。 新しいものにはない、長い年月だけが醸し出せる独特の佇まい。そんな「時間を纏ったもの」がそこにあるだけで、見慣れたはずの部屋の景色まで、どこか奥行きを増して魅力的に見えてくるのです。ふとした場所に置くだけで空間に奥行きを与えてくれる、その静かな力に心惹かれています。 牛丸さんの審美眼で選ばれたアイテムは、どれも個性的でありながら、今の暮らしにすっと馴染むものばかり。決して主張しすぎないのに、空間の温度をほんの少しだけ変えてくれる。眺めていると、それらが歩んできた背景を、つい想像してしまいます。   選ぶ人のまなざし 牛丸さんのアトリエには、さまざまな国から集められたヴィンテージ品が並んでいます。日本の和家具、フランスやデンマークの椅子や照明。あたたかな木製家具から、無骨なインダストリアルのアイアンアイテムまで、その幅は想像以上に広いものです。 不思議なことに、どれもが同じ空間の中で自然に呼吸している。時代も国も異なるはずなのに、どこか静かな調和があります。 わが家の家具も、日本、フランス、デンマークと、いくつもの国のヴィンテージを組み合わせています。特別なルールを決めたわけではなく、ただ「好き」という気持ちに素直に選んでいくと、自然と今の景色になりました。 とはいえ、選ぶときにはいつも少し不安になります。「これとこれは、組み合わせてもおかしくないですか?」そう尋ねる私に、牛丸さんは丁寧に理由を添えて答えてくれます。木の色味、脚のライン、空間の抜け方。感覚だけでなく、そこには長年ヴィンテージを扱ってきたからこその、揺るぎない視点があるのです。 何より、お話ししていると伝わってくるのは、牛丸さん自身の、家具に対する深い愛情。「好き」という根底にある情熱が、国や時代の壁を軽々と飛び越え、調和という一つの形を作り上げているのかもしれません。   フランスの風と、暮らしの背筋 先日、友人とランチに訪れたご飯屋さんで、ふと目に留まったうつわがありました。 少し厚みのある白磁。縁のやわらかな曲線。使い込まれたことで生まれた、控えめな艶。 派手ではないのに、どこか凛とした佇まいがあります。聞けば、それはフランスのヴィンテージ食器とのことでした。 料理そのものはいつもと変わらないはずなのに、そのうつわに盛られているだけで、食事の時間が少しだけ特別に感じられたのです。 日本各地で制作されている作家さんのうつわも、もちろん大好きです。土の温もりや、作り手の息遣いを感じるうつわは、日々の食卓にやさしい温度を添えてくれます。 けれど、生活の中にヴィンテージのアイテムを取り入れると、不思議と背筋がすっと伸びるような感覚があります。時を重ねてきたものが、いまの暮らしに加わることで、いつもの景色がほんの少しだけ深くなる。 それは決して背伸びではなく、時間とともにある豊かさを、そっと手元に迎えるということなのかもしれません。  ...

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