惜春の香りとともに、新茶で初夏を迎える準備を
春もいよいよ後半に差し掛かり、桜はいつの間にか緑に包まれ、若葉が鮮やかな緑色に輝く新緑の季節がやってきました。
そして、この時季は新茶の季節でもあります。
新茶の摘み取りが最盛期を迎え、柔らかな新芽が香り高い一番茶を生み出すタイミング。
春の温かな陽光が茶葉の成長を促し、まさに風味が最も引き立つ瞬間です。
特に、八十八夜が新茶のピークを迎えると言われています。
そこで今年は、新茶を楽しむために神楽坂の名店を訪れることに。
季節の和菓子も一緒に購入し、家にあるとっておきの器とともに、春の余韻をゆっくりと楽しみたいと思います。
お茶の名店「神楽坂銘茶 楽山」
ガラス張りの洗練された外観がひときわ目を引く昭和42年創業「神楽坂銘茶 楽山」の本店。
近くを歩けば、焙煎したてのお茶の香ばしい香りに、自然と足が引き寄せられます。
モダンな外観の楽山本店ですが、一歩中へ入れば、木の温もりと土壁の趣が調和した、思わず寛ぎたくなる数寄屋造りの空間が広がっています。
店内にはさまざまなお茶が並び、煎茶はもちろん、抹茶入り煎茶や黒豆茶、和紅茶、生姜入りほうじ茶など、種類豊富に取り揃えられています。
見ているうちに、あれもこれもと手に取りたくなってしまいますね。
予約販売の新茶は、農林水産大臣賞を受賞した記念茶である、掛川深蒸し煎茶。
まさに「楽山」の中でも煎茶の最高峰ともいえる逸品です。
神楽坂銘茶 竹印
お話をしていると、一番人気の「竹印」を試飲させてくださいました。
豊かな精気がみなぎる風味と、渋みのないすっきりとした味わいが特徴の煎茶。
軽やかな香りがふわっと広がり、飲んだ後の後味は清涼感が感じられ、その余韻が心地よく残ります。
その爽やかな後味に魅了され、こちらも思わず購入を決めた一杯となりました。
楽山のお茶は、何煎淹れても風味がしっかりと残り、一杯ごとに異なる表情を楽しめるのが魅力です。
その味わいの秘密は、生命力をたたえた良質な新芽を丁寧に摘み取り、丹念に精製している点にあります。
特に仕上げの工程で深く蒸すことで、茶葉の形は細かくなりますが、その分味わいが一層濃厚になるのだそうです。
神楽坂 五十鈴
そのまま神楽坂駅方面へ向かうと、創業1946年の和菓子の老舗「神楽坂 五十鈴」が見えてきます。
店内には、看板商品の「甘露甘納豆」をはじめ、季節の和菓子やお饅頭、お赤飯など、手作りの温もりが感じられる品々が並んでいます。
こちらで、お茶の時間にぴったりな和菓子を買うことに。
「五十鈴」さんのお店のこだわりは、何と言っても「餡」です。
餡は和菓子の基礎であり、まさにその命とも言える存在。
餡の出来具合によって、お菓子の旨味が大きく左右されるそうです。
使用するこし餡やつぶ餡は、風味豊かな最上級の北海道産小豆のみを厳選。
さらに、その日の湿度や気温に合わせて、毎日工場で丁寧に炊き上げています。
この手間暇を惜しまないこだわりが、和菓子の味わいに深みを与えているといいます。
四季折々の和菓子づくり
こちらは春限定の和菓子、純白の「薯蕷饅頭」に桜色を加え、一輪の塩漬け桜花をのせたお饅頭です。
皮には吟味されたやまといもと上質な上用粉を使用し、手作りならではのしっとりとした食感が特徴。
和の心を大切にし、職人の手から生まれた心のこもった和菓子には、誰かにそっと届けたくなるような、手仕事のやさしさが感じられますね。
春の生き生きとした自然の息吹や、穏やかな水辺の風景を感じさせる藤の花や水鳥をモチーフにした上生菓子に一目惚れし、こちらも購入することに。
色彩豊かな季節の和菓子を通じて、四季折々の風情を愉しむことができるのも、五十鈴さんならではの魅力です。
季を五感で
また、季節を映し出す贅沢な和菓子とお茶の取り合わせは、五感にそっと寄り添う繊細な組み合わせ。
この時季ならではの春色の食卓には、JINSUIの落ち着いた深いグレーが加わることで、空間がぐっと引き締まります。
シンプルで上品な佇まいは、茶葉の緑や上生菓子の鮮やかな色を引き立て、その味わいをいっそう深めてくれるようです。
JINSUI
クラシックな急須が多い中、「人水」の急須はシンプルでありながらモダン。
色味はホワイト、グレー、ブラックの3色展開で、釉薬をかけないことで光沢感を抑えたマットなデザインが落ち着いた印象です。
また、こちらの急須は、細かな茶漉し部分が本体と一体になっています。
金属製の茶漉しとは異なり、茶葉が急須の中で均等に開くことで、美味しいお茶の成分を余すことなく抽出可能。
注ぎ口の水のキレもよく、セラメッシュを通して注がれるお茶は、急須内の茶葉に残った最後の一滴まで注ぎきることができ、金属製の茶漉しに詰まる煩わしさもありません。
金属を使っていないため、余計な味がつかずまろやかな味わいを楽しむことができるのも、惹かれる点ですね。
春の終わりに
最近は、花粉症や季節の変わり目による風邪で、喉がイガイガしがち。
そんなときには、カテキンを含むお茶が喉にやさしく、気持ちを落ち着けてくれます。
新茶が旬を迎える今、春の名残を感じながら、夏に向けて体調を整えていきたいところです。
春から夏へと移ろう今だけの時間を、そっと心に留めて過ごしたいと思います。