Lunef × アメノイエ -オリジナルフレグランス-

Lunef × アメノイエ -オリジナルフレグランス-

香りづくりのはじまり

今日は、待ちに待った “自分だけのフレグランス” をつくる日。
香りのブランド Lunef(リュネ)の調香師、安藤明日生(あすみ)さんが、わが家に来てくれました。
友人の紹介でLunefと出逢い、その静かな世界観に惹かれて、はや半年。「いつか一緒に香りをつくりたい」という思いを明日生さんに伝えてみると、迷いなく応えてくださり、こうして今日を迎えることに。

白がよく似合う方で、この日も白いワンピースが柔らかな存在感を放っています。その凛とした佇まいに見惚れているやいなや、明日生さんは手際よく準備をはじめます。
何種類もの白い布をつなぎ合わせた素敵なパッチワークのクロスをふわりと広げ、その上に小さな精油瓶をひとつ、またひとつと並べていく。さらに、細長い試香紙に精油を一滴ずつ落としていき、黒いプレートの上に円を描くように配置していく。その一連の流れは、SNSで見てきたあの光景そのままで、なんだか胸が高鳴りました。

やがて準備が整い、紙とペンが手渡されます。
テーブルに並ぶのは、番号だけが記された白い紙。

「まずは、好きな香りと出会ってくださいね」と明日生さんが言います。

普段なら、精油の名前や効能に意識が向いてしまいがちですが、あえて情報を伏せることで、先入観ではなく純粋な好みと向き合ってほしいという明日生さんの意図が伝わり、私の意識も香りそのものへと向いていきました。

 

香りと向き合うひととき

さて、21枚の芳香紙を順番に香っていきます。
8番目あたりまで試していくと、気になるものがいくつも出てきて、少し迷ってしまいます。
すると明日生さんが、「いくつ選んでも大丈夫ですよ」と声をかけてくれました。そのやわらかな笑顔に安心して、また次の香りへと手を伸ばします。

ただ香りだけに集中する時間が、黙々と過ぎていきます。
鼻先に届く瞬間の印象、奥に残る静かな余韻。
そのひとつひとつを確かめていると、全神経が嗅覚へ集まっていくようで、普段では味わえない感覚に包まれました。

すべて試し終えると、明日生さんがひと言。
「紡さんは、ウッディなものがお好きなのですね。」

私が選んだ多くが、森を思わせる精油だったようです。
自然が好きだからなのか、都会の暮らしの中で、知らないうちに森のような静けさを求めているからなのか。

ふっと内側を見透かされたようで、少し照れくさくなりました。

 

ついにかたちになるとき

選んだ精油を一滴ずつ重ね合わせていくと、単体では見えなかった陰影が浮かび上がってきます。

すっと通るような森の空気。
土の渋み。
奥に潜む甘さ。
精油を重ねるごとに変化していく様子は、まるで目の前でひとつの物語がひらいていくようでとてもおもしろい。

けれど、「好き」を重ねただけでは、どこか惜しいのです。
そんな私の中の小さな違和感を、明日生さんは言葉にしなくても察し、数滴の調整でさっと整えてしまいます。すると、すっかりその違和感は消え、複雑でありながらひとつにまとまった香りになりました。

こうして、ベースが完成です。
ここからは鎌倉のアトリエで仕上げてもらうことになり、この日の作業はいったん終了。

あとは、完成の知らせを待つばかりです。

 

鎌倉を訪ねる

仕上がったと連絡をいただいたのは、それから数日後のことでした。

郵送で受け取ることもできましたが、明日生さんがどんな環境でアロマと向き合っているのかを自分の目で見てみたくなり、鎌倉へ向かうことにしました。

待ち合わせは、明日生さんのお気に入りのお散歩コースでもある、自然に包まれた場所。この日はよく晴れていて、まさに絶好のお散歩日和です。
鎌倉駅周辺は観光客で賑わっていましたが、待ち合わせ場所へ向かう小道へ入ると景色がふっと変わります。ひと気のないその一角には、ひんやりと澄んだ空気が満ちていて、鳥たちがさえずりながら迎えてくれました。
風が通ると、落ち葉がさらさらと降ってきます。見上げると、その量に思わず息をのみました。きっと、紅葉の時期ならではの光景なのでしょう。
まるで“葉っぱの雨”のように降りそそぐその瞬間は、なんとも幻想的。そして、木漏れ日が差し込むたびに、景色はそっと表情を変えていきます。

その移ろいがあまりにも美しくて、気づけば夢中でシャッターを切っていました。

 

Lunef 安藤明日生さんの想い

深緑の中を歩いていると、ふと明日生さんがこんな話をしてくれました。

明日生さん:「アロマって、ワインや食の世界とすごく似ているんですよ。」

私:「どういうことでしょうか?」

明日生さん:「ワインって、最初に香る匂いと、時間が経ってからの香り、最後に残る余韻までぜんぶ違うでしょう?アロマにも“層”があって、トップ、ミドル、ラスト……移り変わりが物語みたいなんです。」

一呼吸おいて、明日生さんは続けます。

明日生さん:「食も同じで、スパイスやハーブの組み合わせひとつで味わいががらりと変わるように、アロマも一滴でまったく別の表情になる。そこがおもしろくて。」

なるほど。そう聞くと、アロマがぐっと身近な存在に感じられてきます。
しばらく歩いてから、私はずっと聞いてみたかった質問をしました。

私:「明日生さんは、どうして調香師になろうと思ったんですか?」

 


明日生さんは、まっすぐなまなざしで答えてくれました。

明日生さん:「もともと、季節の変わり目に気持ちが揺らぎやすくて。
その頃、好きなアロマを焚くとふっと整う瞬間を見つけて。
私にとってアロマは、“お守り”のような存在です。」

私:「お守り、すごくいい表現ですね。」

 


明日生さん:「もちろん効能も大切なんですけど、“いい香りだなあ”って心から思えるかどうかもすごく大事にしていて。“これに効くから選ぶ”だけではなくて、ちゃんと“好き”という感覚を大切にした香りをつくりたいんです。」

その言葉を聞いた瞬間、私はますますLunefのファンになりました。
初めてLunefのアロマスプレーを試したときに感じた、 繊細さ、やさしさ、奥にある深み。それはきっと、明日生さんがアロマと向き合う姿勢そのものから生まれているのだと感じました。

 

完成した、アメノイエの香り

そんな会話の後、明日生さんがバッグから小さなガラス瓶をそっと取り出しました。

「これが、紡さんのフレグランススプレーです。
静かな森を感じるウッディな香り。トップノートには爽やかな甘さと自然の潤いを感じ、大地や木肌の温もりが溶け合うような深い香りへと移りゆきます。

 


この気持ちのいい自然の中で、さっそくひと吹きしてみます。

その瞬間、ベルガモットのやわらかな甘さとローズマリーのすっとした気配がふわりと広がり、そこにゼラニウムのみずみずしい華やぎがそっと寄り添いました。
やがて、シダーウッドやヒノキの落ち着いた木の温度がゆっくりと姿を見せます。

木漏れ日の揺れる森のなかで、ひんやりとした土の匂いがふっと漂う。
その自然のグラデーションが、この小さな瓶にそっと閉じ込められているようでした。

朝の深呼吸の前に。
仕事に向かう気持ちを整えたいときに。
夜の静かなひとときに。
これからの日々の中で、この香りをひと吹きするたびに、鎌倉で触れた美しい記憶がふわりとよみがえってくれたら、それはなんて幸せなことだろう。

こうして、“アメノイエの香り”がひとつ生まれました。
この香りが、私だけでなく、まだ見ぬだれかの日々にも寄り添い、そっと気持ちをほどくような存在になってくれたら嬉しいです。