菊地大護 「クリスマスからお正月へ、年末を彩るうつわ」

菊地大護 「クリスマスからお正月へ、年末を彩るうつわ」

冬の気配とともに始まる、特別な時間

冬の澄んだ空気が少しずつ街を包みはじめ、好きな季節がやってきたことを感じる12月。
街にはイルミネーションが輝き、クリスマスや年末のイベントの準備で、どこかそわそわと賑やかな気配が広がります。
この季節ならではのワクワクとした空気に触れると、心が自然と弾みますね。

こうした冬の始まりに、アメノイエではガラス作家・菊地大護さんの作品をお迎えし、季節の移ろいを感じるひとときをご用意しました。
クリスマスやお正月の準備で、うつわの出番がいつもにも増して多くなるこの季節。
晴れの日の食卓に、美しい菊地さんのガラスをしつらえていただきたい。
そんな思いを込めて今回制作をお願いしました。

きらめくガラスのうつわや酒器が、冬の光と静けさを映し込み、日々の食卓にそっと華やぎを添えてくれる時間を感じていただければ嬉しく思います。

稲刈りの季節に訪れた、新しいアトリエ

10月中旬に、完成したばかりの菊地さんのアトリエを訪れました。
秋が深まりきる前、稲刈りが進む田園の中に佇むその空間は、澄み渡る空気に包まれ、どこか未来への静かな期待を感じさせる場所でした。

もともとお米の農家さんが使っていた蔵を、菊地さんがアトリエとして整えたという建物。広々とした空間に高い天井、秋のやわらかな風が抜け、室内に差し込む陽の光が作品の輪郭をやさしく照らしていました。

この日は嬉しいことに、制作風景も見せていただけることに。
ガラスづくりは、吹く人と形を整える人のふたりで行うイメージがありましたが、菊地さんはおひとりで、驚くほど軽やかにこなしていきます。窯から出したばかりのガラスに向き合い、道具を使って形を定めていく姿は美しく、とても印象的でした。

ガラスがまだ熱を帯びているうちに光を透かして輝く瞬間や、金属の道具が触れたときの“カツッ”という澄んだ音、息づかいに合わせてゆらめく色のグラデーション。
その光と音、そして手元の細かな動きに引き込まれ、気づけば呼吸まで自然と菊地さんのリズムに合わせるように見入っていました。

菊地さんのガラスといえば、上品でやわらかなピンク色が特徴です。
この色は、ガラスを琥珀色に仕上げる“アンバー”という原料を使い、薄く吹き上げることでふわりとピンクに見えるのだとか。まさかアンバーからピンクが生まれるとは思いもよらず、ガラスの奥深さに驚かされました。

気さくでお話し上手な菊地さんは、私のリクエストにも快く応じてくださり、見たい作品を次々とその場で形にしてくださいます。

手仕事の丁寧さ

日々愛用している片口。
その切れのよさは、注ぐときのストレスがなく、料理やお酒を楽しむ時間をより心地よいものにしてくれます。

仕上げの要となる口の部分は、道具を使って一気に形づくられ、その一瞬の研ぎ澄まされた集中に思わず見入ってしまいました。

口元を仕上げたあと、底につけられたガラスを外し、作品は窯の中でゆっくりと時間をかけて冷まされていきます。成形後のガラスを丁寧に冷やすことで、急激な温度変化による割れを防ぐのだそうです。

流れるように続く菊地さんの動きと、ひとつひとつの工程を確かめるように進める丁寧な手仕事。
その調和の美しさに見入っていると、いつの間にか時間が経つのを忘れてしまいます。
躍動感のある制作の光景に触れながら、終始心が弾むようなひとときを過ごしました。

どの作品をお迎えするか、アトリエのテーブルをお借りしてゆっくり見比べてみることにしました。
どれも素敵で迷っていると、菊地さんが庭に咲く白い百合をさっと摘み、細いガラス瓶に生けてくださいました。白百合が添えられたことで、テーブルの上のガラスが陽の光を受けていっそう澄んだ輪郭を見せ、静かな輝きがふわりと広がります。

その透明な重なりを眺めながら、じっくりと作品を選ぶ時間を楽しみました。

そんな居心地のよいアトリエは、差し込む光ややわらかな秋風に包まれ、つい長居してしまうほどでした。
菊地さん、素敵なアトリエを見学させていただき、ありがとうございました。

ガラスが映す、冬の光と季節のしつらえ

クリスマスの温かい団欒から、年末のご馳走、新年の凛とした食卓まで、冬のさまざまな場面を彩るガラスの作品たち。

普段は涼やかな季節に使うことが多いガラスですが、抜け感のあるうつわは冬の光を受けることで表情を変え、軽やかで美しく、どこか洗練された雰囲気を運んでくれます。

年越しには酒器をしつらえて。
お酒をいただく時間が、いつもより少し特別に感じられそうです。

どの作品にも、菊地さんのガラスが持つやわらかな存在感と、手仕事のやさしさが宿っています。

アメノイエで、その透明な世界をぜひお楽しみください。
皆さまのお越しを心よりお待ちしております。


キオク – Memory

菊地さんのアトリエで使われていた道具たち。