水の流れを思わせる曲線美

はじまりは、ひとつのガラス 

まるで水が流れる、その瞬間を閉じ込めたかのよう。

やわらかな曲線や溶け合う色彩は、今にも流れ出しそうな躍動感を宿しながら、不思議と凛とした静けさも感じさせます。

光を受けるたびに表情を変え、ふと視線を向けるたび、その美しさに思わず手を止め、見入ってしまう存在です。

出会いは約三年前。
ふらりと立ち寄ったインテリアショップで見つけた、無骨でいてどこかやわらかなガラスの塊。その佇まいに心を奪われ、直感のままわが家へ迎えました。

本当の美しさに気づいたのは、自宅の窓辺で強い西日をたっぷりと受けたとき。光をまとったガラスは息をのむほど美しく、その瞬間からLANさんのガラスの虜になったことを今でもはっきりと覚えています。

 

その後、ご縁があってLANさんご本人とお会いする機会に恵まれました。お話ししてみると、お互い自然が大好きだということが分かり、すっかり意気投合。今では一緒に山へ出かける間柄になりました。

先日も、新緑が美しい八ヶ岳へ。ゆっくりと山道を歩きながら、ガラスづくりのことや作品に込める思い、これまで歩んできた道のりなど、いろいろなお話を聞かせていただきました。

 

歩幅を合わせながら聞いた、はじまりのこと  

LANさんがガラスの制作を始められてから、今年で約7年。

最初は前職のかたわら、バーナーを使って小さなアクセサリーを作るところからスタートし、その後吹きガラス(ブローワーク)を教わったことで、お香立てや一輪挿しといった、暮らしの中で使われる道具へと表現が広がっていったといいます。

 

「前職で培った色づくりや色の組み合わせの感覚は、現在の作品づくりにも活かされていると感じています」

そう語るLANさんの作品は、スモークグレーやダークブラウンなどが静かに混ざり合う、とてもシックで奥深い色合いが魅力です。

色彩がゆったりと溶け合い、たゆたうようなグラデーション。
透き通るガラスの中に閉じ込められた小さな気泡すらも、光を受けて小さな粒のように輝いていて、眺めるたびに新しい表情に気づかされます。

 

偶然の揺らぎをそのまま愛おしむ 

熱く溶けたガラスは、温度や時間、ほんの少しの手の力加減によって仕上がりが大きく変わる、とても繊細な素材です。

制作を始めた頃は、自分が思い描いた形を正確に表現することを意識していたというLANさん。けれど、日々ガラスと向き合うなかで、その姿勢は少しずつ変わっていったのだそうです。

「思い通りにならないことも多いですが、その難しさがあるからこそ新しい発見や学びがあり、制作を続ける面白さにつながっています。」

今では、ガラスが自然につくり出す揺らぎや、その時々に生まれる偶然の表情も、一つの個性として大切にしながら制作されているそうです。
だからこそ、LANさんの作品には、どこか自然の流れをそのまま映したような、飾りすぎない美しさが宿っているのかもしれません。

 

アートのような佇まいと、日常の機能 

「ご覧になる方それぞれが、自由に何かを感じたり、風景や記憶を重ね合わせたりしながら楽しんでいただけたら。」

作品をつくるうえで大切にされているのは、アートとしての表現と、暮らしの中で使う道具としての心地よさ。そのどちらかではなく、両方が自然に寄り添うことなのだそうです。

山道をゆっくり歩きながら、ものづくりのお話を聞き、その考え方に触れるほど、私はますますLANさんのガラスに惹かれていきました。

また新しい作品を迎えたいとお伝えすると、「もちろんです。」と笑顔で応えてくださったLANさん。
それから数か月後、わが家へ届いたのは、私をイメージした色合いで仕上げてくださったお香立てと花器でした。
初めてLANさんの作品に出会った三年前、心を奪われた静かな美しさはそのままに、今回の作品は、より有機的な曲線を描き、色彩もさらに豊かに重なり合っています。

 

止まることのない探究心

現状に留まることなく、LANさんの探求は今も続いています。

「最近は、シルバーの焼き付けやサンドブラストなど、新しい技法を取り入れた作品づくりにも挑戦しています。これからはもう少し大きな作品にも挑戦し、ガラスならではの表現の幅を広げていけたらと思っています。」

穏やかな口調で未来を語るLANさん。
これからどんな景色をガラスに映し出してくれるのか、一人のファンとして、その歩みを楽しみにしています。

 

光が描く日々の表情

LANさんが教えてくださった、ガラスの一番の魅力。

「光の当たり方や見る角度によって、さまざまな表情を見せてくれるところ。」

その言葉の意味を、今では毎日の暮らしの中で何度も感じています。

朝のやわらかな光が差し込む窓辺に花器を置くと、ガラス越しに映る茎の緑や、その影までもが美しく映し出されます。
仕事の合間にお香に火を灯すと、ゆらゆらと立ちのぼる煙がガラスの中の気泡や色彩と重なり、静かな時間を運んでくれます。

朝と夕方。
晴れの日と雨の日。

光が移ろうたび、ガラスは少しずつ違う表情を見せてくれます。

光が変われば、昨日とはまた違う美しさに出会える。
そんな小さな楽しみが、日々の暮らしにまたひとつ増えました。