基本の包丁
最近は日が少しずつ長くなり、柔らかな夕陽に心がほぐれますね。
本日は、かねてよりお願いしておりました福井県越前市の伝統工芸士・戸谷祐次さんの三徳包丁とペティナイフ(巴刃)が届きました。
早速うっすらと夕方の光が残る台所に立ち、少し早めに夕食の準備を始めると、時間がゆっくりと流れているようで、ふと童心に戻るような気持ちになります。
戸谷さんが大切にされているという、「現代の生活に馴染むミニマルで静かなたたずまい」「越前打刃物ならではの軽やかさ」「どんな料理にも寄り添う使いやすさ」。
江口海里さんが担当されたデザインは素朴なつくりで手にしっくりと馴染み、どんな食材もスッと切れる心地よさには、基本の包丁として長く寄り添ってほしいという想いが感じられます。
研ぎ直しのサービスもあるので、使い続ける安心感も。
無駄のない美しい佇まいの包丁を手に、「これからよろしくね」と、思わず呟いてしまうような、そんな逸品です。
「研ぎ師」戸谷 祐次
戸谷さんは、両刃包丁をはじめとするさまざまな刃物の研ぎ仕上げや研ぎ直しを手がける「研ぎ師」として、日々刃物を作り続けています。
生まれたときから身近にあった家業を受け継ぎ、新たに「Sharpening four」を設立し、
2023年、自身の想いを込めたブランド「癶(HATSU)」を立ち上げました。
戸谷さんにとって、刃物や包丁は、そのものを通して世界中の人々と関わり、仲間たちと共に仕事をしたり、
地域や産地でのものづくりの可能性や夢を与えてくれる存在だと言います。
包丁は単なる道具ではなく、同じ志を持つ人々との繋がりや産地の発展、未来に新しい価値を生み出してくれる、戸谷さんの想いが込められた賜物。
戸谷さんが私たち使い手と横並びになってものづくりに携わる姿勢や、包丁を極め、
身の周りの環境に妥協せず向き合い続けるからこそ、本質的なものを生み出し続けているのだとおもいます。
癶(HATSU)
「HATSU」がモチーフに掲げる「癶(はつがしら)」という部首には、
「何かをスタートさせる時に両足をそろえて立つ」という意味が込められてるそうです。
使い手が包丁を手に取った瞬間に、「料理」という物語がはじまる。
越前打刃物という伝統工芸をより多くの人に知ってもらうという戸谷さんの新たな挑戦もはじまる。
さまざまな「はじまり」への想いを込めた「癶」を冠したこの包丁は、友人のお祝い事や引っ越しなど、
何かがスタートするタイミングにぴったりで、贈り物としても手に取ってみたくなりますね。
タケフナイフビレッジ
制作は、福井県越前市武生のタケフナイフビレッジで行われています。
この町に根付いた越前打刃物の起源は約700年前。
京都の刀匠・千代鶴国安が名刀を鍛える水を求めて越前の地を訪れ、農民のために鎌を打ち、野鍛冶に技を伝授したことから始まったと言われています。
高度経済成長期に手作りの刃物の需要が激減し、産地は衰退の危機に直面しました。
しかし、10人の若い職人たちが伝統の継承と後継者育成のために立ち上がり、1982年にはデザイナー川崎和男と共に「タケフナイフビレッジ」ブランドを確立。
川崎和男は、アップル社とのデザイン仕事で知られる数少ない日本人の一人。
その後、海外で成功を収め、産地の復活に貢献しました。
1992年、総工費3億円、一人3000万の借金を背負い、タケフナイフビレッジ共同工房・協同組合を創立。
新たな活動拠点で、独立を前提とした次世代の育成が始まり、そして今、次の親方たちへという歴史があります。
この場所で培われた職人の皆さんの情熱や探求心、それを形にする際の内部にまでこだわった伝統的な技術、
そしてデザイナーの審美眼が融合したこの包丁を実際に使ってみると、包丁の概念が少し変わりました。
錆びにくさ・切れ味・靭性を兼ね備えた八角三徳包丁
和洋それぞれの良さを兼ね備えた「和三徳包丁」。
刃は食材を選ばずマルチに使える「両刃」で、洋包丁特有の形状は右利きの私にはもちろん、左利きの方にもつかいやすいのだそう。
また、柄は和包丁の形状を取り入れ、木製ならではの軽さと質感を残した柔らかさが特徴。
刃と柄の重量バランスが良く、長時間使用しても手が疲れにくい点が魅力です。
「刃」には鋼が適しているとされていますが、扱いが難しく、錆びやすいのが難点です。
そこで、ステンレスを含む三層鋼構造にすることで、錆びにくさ・切れ味・靭性を兼ね備え、高いコストパフォーマンスを実現しています。
熟して柔らかくなったトマトや、硬さのあるリンゴなど、どんな食材でも薄く切れる優れた切れ味。
さらに、キャベツの千切りもスムーズに切り離れ、食材本来の食感を損なわず、野菜のみずみずしさをそのまま楽しめます。
安定感があり小回りのきく巴刃
小三徳とペティナイフのいいとこ取りをしたミニ包丁「巴刃(ともえは)」。
「2つの特性を等しく持つもの」という意味で、小三徳包丁のしっかりとした切れ味をベースに、ペティナイフの小回りの良さが取り入れられています。
刃幅が先端に向けて細くなっている形状は大きな食材も安定してカットでき、飾り切りや皮むきにも対応可能な、小三徳とペティナイフのハイブリッドです。
越前打刃物らしく軽量でコンパクトながら、力が入れやすく、一本あればさまざまな場面で便利です。
実際にオレンジやキウイの皮を剥く際、刃元に指を掛けたり、しっかり握っても安定して手にフィットするため、
自在かつスムーズに扱え、薄く剥くことができ、ストレスなく使用できます。
また、皮むきだけでなく、きゅうりやミニトマトなどの小ぶりな食材をカットする際にも活躍する場面が多いです。
包丁で、食卓の満足度を上げる
寒さと暖かさが交差するこの時期は、巡っていく季節に合わせて自分の中で感じる暮らしの変化も楽しみたい。
例えば、「今日はちょっと本格的な料理に挑戦してみよう!」という気分の日。
癶の包丁を使うことで、食材の断面から余計な水分や旨みが流れ出るのを防ぎ、味や食感をより良い状態に保つことができ、
料理の仕上がりや食べたときの満足感が大きく向上するような気がします。
もちろん日常使いにも使用しますが、立派な魚を見て捌いてみたいとおもったり、見たことのない野菜に出会ったときなど、
調理が難しそうと思いながらも少しわくわくするもの。
皆さんも、癶の包丁を通して、普段とは違うレシピに挑戦し、その瞬間の食材を主役にした献立を組んで、
今までにない新しさを生活に取り入れてはいかがでしょうか。