漆で愉しむ、桃の節句。
桃の花に、せかされて あっという間に二月も終わろうとしています。仕事帰りにふらりと立ち寄った駅前の花屋には、まだ冷たい風のなか、春の枝ものがずらりと並んでいました。中でも目を引いたのは、鮮やかなピンク色の桃の花。まだ冬の気配が残る景色の中で、季節が静かに動き出していることを教えてくれるようでした。 ちょうど見頃を迎えた華やかな枝に惹かれつつも、手にとったのはまだ蕾の多いもの。家のなかで少しずつほころんでいく様子を眺めたかったからです。 「桃の節句」は、もともと季節の変わり目に邪気を払う行事なのだとか。子どもの成長を祝うイメージが強いですが、大人になった今でも、自分のために季節の節目を整える日として大切にしたいなと思うのです。 節句は来週ですが、当日は仕事の予定。 ゆっくり食卓を整える時間が取れそうになかったので、今年は少し早めに楽しむことにしました。 暮らしに馴染んできた、漆器たち せっかくの節句なので、今日はお気に入りの漆のうつわで食卓を彩りたいと思います。キッチンの奥の棚から取り出したのは、お正月以来となるお重と漆器椀。蓋をそっと開けると、ほのかに漆の香りが立ち上ります。迎えたばかりの頃のツンとした漆の香りはすっかりやわらいでいました。そんな些細な変化に、道具がわが家の暮らしに馴染み始めている実感が湧いて、なんだか嬉しくなります。 少し小さいかなと思っていた15cm角のお重も、ふたり暮らしには本当に使いやすく、特別な日には欠かせない存在になりました。 今回は、春の華やかな色味をどのように受け止めて、そしてどう映えさせてくれるのか。黒漆のなかに広がる景色を想像するだけで、わくわくしてきます。 黒いお重に映える、ちらし寿司 メインは、やっぱりちらし寿司。 マグロ、サーモン、鯛、いくら、きゅうり、玉子。 食材の色のバランスを確認しながら均等なサイズに揃えていきます。 ちらし寿司は、盛り付けのバランスがすべて。仕切りのない自由なお重の空間に、どう彩りを配置していくか。それは、真っさらなキャンバスに絵を描く作業によく似ています。 微調整しながら、四角い枠の中に少しずつ春を埋めていきます。 吸い込まれるような黒漆の地色は、昼の光の下で食材の色彩を驚くほど鮮明に浮かび上がらせてくれ、まるで宝石箱のようです。黒という色は、一見重厚ですが、最高の「引き立て役」なのだと改めて思います。 はまぐりと菜の花のお吸い物 お重の隣には、はまぐりのお吸い物を添えました。 少し早いこともありお店に並んでいるか不安でしたが、いつものスーパーを覗くと、立派なはまぐりを見つけて迷わずかごに入れたものです。 味付けはシンプルに。昆布とはまぐりから出る出汁に、お酒とお塩をひとつまみだけ。火にかけてしばらくすると「パカッ」と元気な音を立てて殻が開き、ふわりと磯の香りが立ち上ります。 ここに菜の花も加え、やさしいながらも深みのある味わいは、調味料では表現できない、まさに春の一杯です。 少し残った菜の花はお浸しにしていただきます。今回の菜の花はとても新鮮だったようで、苦みが驚くほど少なく、瑞々しさが際立っていました。 季節の移ろいを愉しむ、お茶の時間 食後は、お気に入りの急須でお茶を淹れ、お重のもう一段に忍ばせておいた春の和菓子を堪能しました。あたたかいお茶とたわいもない話でゆったりと過ごす、心ほどけるような午後の時間。...


急須を探して見つけた、特別な出会い







