あらたなうつわとの出会い
土のうつわなのに、まるで石のよう。
初めて小原創太さんのうつわを目にしたとき、そんな感覚を覚えました。
きっかけは、知人が見せてくれた一枚のプレート。
一枚一枚じっくり見比べると、青みの現れ方や炭の跡、貫入の表情は少しずつ異なり、それぞれが違う空気をまとっています。
ぜひわが家にも迎え入れたいと思ったのと同時に、「どのようにして、こんな奥行きのある表情が生まれるのだろう」という思いが募りました。
作品そのものに惹かれたのはもちろんですが、それ以上に、その背景にあるものづくりを知りたくなったのです。
そんな思いから小原さんに連絡をし、先日、埼玉県所沢市にある工房を訪ねさせていただくことになりました。
静かな工房で
少し汗ばむ陽気の中、車を走らせて小原さんの工房へ向かいました。
住宅街の一角に建つ、ご自宅兼工房。扉を開けると、まず目に飛び込んできたのは、棚に整然と並んだうつわたちです。
知人に見せてもらったあのプレートや、印象的な丸いカップ、凛とした佇まいの花器など。あの日、一目惚れした表情の作品たちがずらりと並んでいて、思わず心が躍ります。
温かく迎えてくださった小原さんは、とても穏やかで、言葉のひとつひとつから誠実な人柄が伝わってくる方でした。
棚のうつわを眺めていると、小原さんは愛おしそうに手に取りながら、それぞれの表情が生まれる背景を聞かせてくださいました。
土の色、釉薬の掛かり方、そして炭化の工程。
さまざまな要素が重なり合うことで、奥行きのある表情が生まれるのだそうです。
同じ材料と工程でつくられたうつわであっても、並べて見比べると、ひとつとして同じ表情のものはありません。
工房へ来る前に感じていた「どうしてこんなに奥行きのある表情が生まれるのだろう」という疑問が、小原さんの言葉によって、少しずつほどけていくようでした。
土と向き合う時間
この日は、「たたら」という技法による制作工程の一部を見せていただけることになりました。
ろくろが回転する土から形をつくるのに対し、たたらは板状に伸ばした土を型に沿わせて成形していく技法。平らなうつわは一見するとつくりやすそうにも思えますが、実は焼成すると歪みが出やすく、思うような平らさに仕上げるのがとても難しいのだそうです。
まずは、「菊練り」と呼ばれる土を練る工程から。
土の中の空気を抜きながら、硬さを均一に整えていきます。
土の塊に体重をのせ、リズミカルに形を変えていく無駄のない動きに、思わず見入ってしまいます。
菊練りを終えて、ロケットのような形に整えられた土の塊。それを手で少しずつ押し潰すようにして、きれいな平たい円柱状へと伸ばしていきます。
小原さんはその円柱状の土の左右に、細長い木製のプレートを何枚か重ねて置きました。そして、ピンと張った細い針金を並行に滑らせるように引き、均一な厚みに一枚ずつきれいにスライスしていきます。
本来なら、このスライスした土を仕立てるには、だれないように少し乾燥させる時間が必要なのだそうですが、この日は、あらかじめちょうどいい硬さになるまで乾燥させておいたものを別に用意してくださっていました。
ほどよく乾燥した土を、丸みを帯びた型の上にそっとのせます。
回転する台の上で、手のひらを使って優しく、型に沿わせるように成形していく。
その手仕事によって、平らだった土の板が、みるみるうちにうつわの形へと整っていきます。
流れるようにスムーズに見える工程ですが、焼き上がりまでには細やかな調整が欠かせません。歪みや割れを防ぐため、乾燥のタイミングを見極めながら、慎重に管理していくのだそうです。
特に大きな板皿は、三回目の「炭化焼成」のタイミングで割れてしまうことが多いといいます。
「前に、大きな板皿をたくさん作ったことがあったんです。壁掛けにしたり、大きなお皿にしたいなと思って。でも、最後の最後で9割くらい割れてしまって。あのときは本当に落ち込みましたね」
そう少し苦笑いしながら話す小原さん。
それでも、どうして割れてしまったのか原因を探り、温度を少しずつ変えたり、窯の中の置く位置や向きをいろいろ試したりしながら、また次の制作に向き合い続けているのだといいます。
そうした試行錯誤の積み重ねが、小原さんらしい表情豊かなうつわを生み出しています。
偶然が描く、炭化の景色
その表情をつくる、大きな要素のひとつが「炭化(たんか)焼成」という工程です。
素焼きし、釉薬をかけて焼き上がったうつわを、今度はもみがらと一緒に「鞘(さや)」と呼ばれる丸い容器に閉じ込め、窯に入れて三度目の火を入れます。
「こればかりは、本当に窯を開けるまで分からないんです。」
小原さんが、窯の中からまだ熱を持った鞘を取り出し、手袋をした手でそっと蓋を持ち上げます。
中に敷き詰められていたのは、真っ黒に燃え尽きたもみがらの灰。その中からうつわを一つひとつ掘り起こし、灰を優しくはらうと、そこから薄灰色の平皿が姿を現しました。
一般的に炭化焼成といえば、黒く染まる表情が多いなか、小原さんのうつわは、薄灰の中にところどころ、かすかに青がにじむような繊細な色合いが印象的です。
「ある程度は、こういう表情にしたいと狙いを定めて、調合や焼成の調整をしています。でも、いざ窯を開けてみると、思い描いたところに届かないこともあるし、反対に想像以上のものが生まれていることもある。自分が思い描いていたものを超えて、自然が新しい表情を見せてくれる。そこがやっぱり、炭化焼成の面白いところですね。」
そう話す小原さんの言葉からは、土や炎と向き合いながらも、最後は自然に委ねるという、炭化焼成ならではの魅力が伝わってきます。
あの日、私が一目惚れした、白と灰のやわらかな貫入が入り混じる表情。
それは偶然生まれたものではなく、幾度も試行を重ねるなかで、小原さんが探し続けてきた先に現れたものなのだと感じました。
探り探り、試しながら
「まだいろいろ探りながらやっているんです」
「もうちょっとブラッシュアップしたくて」
そう話す小原さんは、なんだかとても楽しそう。
目の前に並ぶうつわは、どれもすでに十分に美しい。けれど小原さんの視線は、その先に向いている気がします。
小原さんが陶芸の道へ進んだきっかけは、大学卒業後に会社員として働いていた頃にありました。これからの生き方を考えたとき、心のどこかにずっとあった「ものづくりへの憧れ」が、少しずつ大きくなっていったといいます。
自分が心からかっこいいと思ううつわを作る作り手のもとへ飛び込み、一から手仕事を学ぶ。そこから陶芸に魅了され、焼成や土、釉薬と真摯に向き合いながら、一気にその世界にのめり込んでいったのだそうです。
コントロールしきれない自然の揺らぎと対話するように、ひとつひとつ確かめながら積み重ねていく。その時間そのものを楽しんでいる小原さんの姿が、とてもまぶしく見えました。
涼を運ぶ、お茶の時間
ひと通り見せていただいた後 、小原さんがお茶を淹れてくださいました。
代表作でもある丸いカップには、たっぷりのロック氷。そこへ冷たい緑茶が注がれると、空間に一気に涼が運ばれてきます。
手に取ると、石を思わせるような、なめらかな質感が指先に伝わります。そこへ冷たいお茶でひんやりと冷えたうつわの感触が重なり、思わず何度も手のひらで包みたくなりました。
素焼き、本焼き、そして炭化。三度の焼成を終えたあと、ひとつひとつをヤスリで丁寧に磨き上げることで、口当たりは驚くほどなめらかに。その心地よさからも、小原さんの手仕事の丁寧さが伝わってきます。
こうして迎えた小原創太さんのうつわたち。
窯を開けるまで分からない、あの美しい偶然が描く表情は、わが家の食卓にも自然と溶け込み、日々の暮らしを涼やかに彩ってくれています。

