寒仕込みの季節
一年で最も寒さが厳しくなるとされる「大寒」。 今年の1月20日は、まさに大寒の日でした。
気温が低く、雑菌が繁殖しにくいこの時期は、味噌を仕込むのに最も適した季節。「寒仕込み」と呼ばれるこの時期に仕込む味噌は、ゆっくりと発酵し、味わい深くなると言われています。特に大寒に仕込むと最高の逸品になるという慣習もあるようで、今年はちょうど仕事のスケジュールも合ったので、この縁起の良い日に「大寒仕込み」を決行しました。
味噌づくりは、これで二回目。 初めて仕込んだのは一昨年の冬です。
前回はフードプロセッサーを使って滑らかなペーストにしたのですが、今回は「もっと大豆の食感を楽しみたい」、そして前回とはまたひと味違った味噌に育てたいと思い、「すり鉢」で挑むことにしました。
そんな私の味噌づくりの備忘録です。
Day1:大豆を仕込む
味噌の材料はとてもシンプルで、大豆と米麹、そしてお塩のみ。 たったこれだけの材料で、あんな深みとコクが生まれるのがいつも不思議でなりません。目に見えない発酵の力には、毎回驚かされます。
味噌づくり1日目は、大豆の仕込みから始まります。
まずは水が透き通るまで丁寧に洗い、ザルにあげて水気を切ります。
洗った大豆を大きめの鍋に移し、たっぷりの水を注いだら、ここからおよそ18時間かけてじっくりと水を吸わせます。
「美味しく戻ってね」と声をかけ、静かな浸水時間の始まりです。
Day2:大豆の香りに包まれる台所
翌日、大豆たちは水をたっぷりと吸い込み、昨日の倍以上の大きさにふっくらと膨らんでいました。 形も、ころんとした真ん丸から、ふっくらとした長丸に。表面はツヤツヤとしていて、内側からパンと張り詰めるような瑞々しさです。
さあ、ここからが本格的な味噌づくりの開始です。
大豆を煮込む
鍋の中を覗くと、大豆がたっぷりと水を吸ったおかげで、水位がずいぶんと下がっていました。 旨味が溶け出しているこの漬け汁は、捨てずにそのまま煮るのに使います。 少し水が足りなかったので、豆がしっかり被るくらいまで水を足して、コンロの火を点けました。
沸騰してくると、鍋一面を覆うようにモコモコと白い泡が立ち上ってきます。 こんなにもアクが出るのかと驚きつつ、丁寧に掬い取り、吹きこぼれないよう弱火に。
コトコト、コトコト。
鍋の中で豆が踊る微かな音とともに、部屋中に甘くふくよかな香りが満ちていきます。
煮始めから3時間半。
鍋から一粒取り出し、指で挟んでみます。 「むにゅっ」 力を入れずとも、簡単に潰れる柔らかさ。 食べてみると、ホックリとしていてやさしい甘みがあり、いい塩梅で茹で上がりました。
大豆をすり潰す
冷めきらないうちに潰す作業に移ります。 ここで、すり鉢とすりこぎの登場です。
一昨年のようにフードプロセッサーなら、スイッチひとつであっという間に終わる工程ですが、あえて自分の手で向き合う時間も、なんだかいいものです。
いざ始めてみると、大豆がつるりと逃げてしまい、最初は少し苦戦しましたが、続けているうちにコツを掴み、次第にリズムよくこなせるように。
完全にペーストにするのではなく、あえて粒を残す「粗つぶし」加減を探りながら、ただひたすらに手を動かす。 頭の中の雑念が消え、ただ目の前の豆に向き合う時間は、ある種の瞑想のようでした。
塩切り麹を仕込む
大豆の煮汁が60度以下に冷めたころに、塩切り麹の準備です。
とっておいた煮汁を米麹に回しかけ、水分を含ませてあげます。 乾燥していた麹が、水を吸って少しふっくらとし、独特の甘い香りが立ち上りました。
ひたすらに混ぜ合わせる
大豆と塩切り麴の準備が整ったら、いよいよ二つを合わせます。
まずはヘラでざっくりと、ある程度混ざったら、そこからは素手の出番です。
「美味しくなぁれ」と念じながら、全体を均一に練り込んでいくのですが…この作業がやはり一番の重労働でした。 私が仕込む量はまだまだ少量ですが、何十キロもの味噌を一度に仕込む方を心から尊敬します。
目指すのは、耳たぶくらいの硬さ。
しかし、粗く潰した大豆は水分が馴染むのに時間がかかるのか、なかなか一つにまとまってくれません。
体重をかけて、こねて、こねて。
ボウルの中で生地を折りたたみ、手のひらの付け根で押し込む。まるでパンをこねているかのようです。
やがて、生地がしっとりと馴染み、指先で触れると吸いつくような、ようやく目指していた「耳たぶ」の感触になりました。
味噌玉をつくる
こね上がった味噌は、そのまま容器に入れるのではなく、一度「味噌玉」にします。
両手で空気を抜くように、ぎゅっぎゅっと握って、野球ボールくらいの大きさに丸めていきます。 並んだ味噌玉たちの愛らしいこと。このひと手間が、容器に詰める際の空気を抜きやすくする大切な工程なのです。
甕(かめ)に詰める
いよいよ最後に、味噌玉を容器へ詰め込んでいきます。
「えいっ!」と、みなさんの見よう見まねで投げつけますが、普段、なかなかこんなことをすることがなく、自分のぎこちなさに少し笑えました。 投げつけた味噌玉は、さらに空気を抜くように押し込み、表面を平らにならします。雑菌の入り口にならないよう、丁寧に、丁寧に。
そして、カビ除けのために表面に塩を振り、最後に食品用のアルコールスプレーをシュッとひと吹き。 ラップをぴったりと密着させて、空気を遮断します。
蓋をして日付を書き込み、味噌仕込みはひとまず完了です。
美味しく育つ、その日まで
仕込んだばかりの味噌は、キッチンの片隅に置いておくことにしました。
直射日光が当たらず、風通しの良い場所がよいそうで、冷蔵庫に入れるのは厳禁。 これから訪れる春の温かさや梅雨の湿気を経て、微生物たちがゆっくりと発酵を進めてくれます。 カビや塩加減など不安もありますが、今はただ信じて待つのみです。
食べ頃は半年から一年と言われていますが、旨味も増してくる8ヶ月目あたりが、ちょうどよい頃合いになるでしょうか。 ひと夏を越した味噌を、キュウリにつけてガリッとかじる。 想像するだけで、喉が鳴ってしまいそうです。
まずは半年後、ドキドキしながら蓋を開けるその日のことを、またこの場所でご報告させてください。 どうか、美味しく育っていますように。

