雨音を聴きながら、いつもの香りを
雨の日の深呼吸 今年の梅雨は、梅雨らしい雨の日が続いています。 朝からしとしとと降り続く日もあれば、窓ガラスを叩くほど雨音が強い日も。庭の草木はその雨をたっぷり吸って、気づけばひと回り大きく成長しているようです。 そんななか、お茶を淹れて本を開いたり、雨粒に打たれる庭木を眺めたり。家でゆっくり過ごす時間が増えるこの季節は、なかなかいいものです。 けれどその一方で、雨の日が続くと、どこか空気がこもったように感じることがあります。 そんなときは、お気に入りのフレグランスをひと吹き。 細かな霧がふわりと香りと広がると、部屋の空気の角がとれて、表情だけが少し変わるような気がします。 感覚を頼りに選んだ香り 今ではすっかり「いつもの香り」になったこのフレグランス。半年前、Lunefの安藤明日生さんと一緒に、自分だけの一本としてつくったものです。 テーブルいっぱいに並んだ精油の中から、そのときの自分が心地よいと感じるものを選び、ひとつの香りに仕立てていただきました。 印象的だったのは、精油の名前を伏せた状態で選んでいったこと。ラベルに書かれた名前にとらわれず、香りと向き合う時間は今も忘れられません。 「あ、これ好きだな」「もう一度嗅いでみたい」 そんな直感だけを頼りに、一つひとつ選んでいきました。 普段は「リラックスしたいからラベンダー」「すっきりしたいからレモン」と知識で選びがちですが、この日はそれをいったん脇に置いておいて。 そうして集まった精油のバランスを明日生さんが丁寧に整え、一つの香りに仕上げてくださいました。 完成したのは、静かな森を思わせるフレグランス。ベルガモットやローズマリーの爽やかさから始まり、ヒノキやシダーウッド、ベチバーの深い香りへと移り変わります。後から配合を見せていただくと、思っていた以上に木々や土を感じさせるエッセンスが集まっていて、自分の自然好きな内面がそのまま表れていたことに少し驚きました。 出来上がったばかりの頃は少し特別な気持ちで手に取っていましたが、今では仕事の合間にも、夜に本を読む前にも、手に取る回数が増えています。 鞄のポケットに忍ばせて 最近は家だけでなく、旅や出張にも欠かせない存在になっています。仕事で数日家を空けるときも、この小瓶をかばんの隙間に滑り込ませるのがいつの間にか習慣になりました。 旅は大好きなのですが、慣れない宿の部屋に着く頃には、思っている以上に身体が強張っていることもあります。荷ほどきをして窓を開け、外の空気を一呼吸入れたあと、空間にいつもの香りをひと吹き。 すると、見慣れない部屋にもいつもの空気が広がり、張っていた肩の力がすっと抜けていきます。 家で原稿に向かっているときも、旅先のベッドサイドでも、そこにあるのは同じ香りです。遠くに来ているはずなのに、いつもの暮らしの延長にいるような安心感があります。 枕元に軽く吹きかけて目を閉じると、さっきまでいた街の気配が少しずつ遠のいていき、やがて、深い森の中にいるような静けさに包まれ、そのまま自然と眠りにつけるのです。 変わっていくもの、変わらないもの 雨の日も、仕事の合間も、旅先の宿でも。 半年前に名前も知らず、ただ感覚だけで選び集めた精油は、すっかり私の暮らしの一部となりました。 自分のまんなかにある「自然が好き」という根っこから生まれたあの深い森のような匂いは、今思えば、私の暮らしにとってとても必然的なものだったのだと感じます。...


「冨本大輔×ヤマセ製陶所」すり鉢





