その季節、その人だけの香り

季節とともに変わる、心惹かれる香り

先日、アメノイエで香りのブランド「lunef(リュネ)」の安藤明日生さんをお迎えし、自分だけの香りづくりのワークショップを開催しました。

神楽坂の坂道を歩くだけでも汗ばむような夏の日。
暑いなかお越しくださったみなさま、本当にありがとうございました。

 

テーブルいっぱいに並んだ、たくさんの精油の瓶。

ふたを開けるたび、柑橘のみずみずしい香りやミントやセージの清々しい香りがやさしく広がっていきます。
この日多くの方が選ばれていたのは、レモンやベルガモット、オレンジなどの柑橘やすっと風が通り抜けるようなミントやセージ。
夏の暑さのなかでは、自然とそんな軽やかな香りに手が伸びるのかもしれません。
少しずつ異なる香りが重なり合うたび、アメノイエの空間にも夏らしい涼やかな空気が満ちていきました。

前回このワークショップを開催したのは昨年の冬。
あの時は、木々や樹脂を思わせるあたたかく包み込まれるような香りを選ばれる方が多かったことを思い出します。

冬には冬の、夏には夏の。
季節が巡るたび自然と心惹かれる香りも少しずつ移り変わっていく。
そんなことをこの日あらためて感じました。

 

名前を知らずに選ぶということ

このワークショップのおもしろさのひとつは、最初に精油の名前を伏せたまま香りを選ぶことです。
効能やイメージにとらわれず、まずは「心地いい」と感じる香りを自分の感覚だけを頼りに選んでいきます。

たくさんの精油のなかからそれぞれが自然と手に取った一本。
その時はまだ名前も特徴も知らないはずなのに、あとから見返してみるとその季節らしさやその人らしさが不思議と表れていました。

香りを選んだあとは、明日生さんが一つひとつの精油についてその特徴や背景を丁寧に教えてくださいます。
たとえば、ゼラニウムは気持ちを整え、集中したい時に寄り添ってくれる香り。安眠を意識するならオレンジを少し加えてみるのもおすすめなのだそうです。

名前や特徴を知ることで最初の印象に新しい発見が重なっていきます。
明日生さんのお話を聞いてからは、「これも合わせてみたいです。」という声があちらこちらから聞こえてきました。

先入観を持たずに選ぶからこそ、自分でも気づかなかった心地よさに出会える。
そんな驚きもこのワークショップならではの楽しさなのだと思います。

 

  迷いながら、自分だけの香りへ

精油は一滴加えるだけで印象が驚くほど変わります。
爽やかだった香りに少し深みが生まれたり、強く感じていた香りがやわらかな表情になったり。

「もう少し軽やかにしたい。」
「あと一滴加えたら、どう変わるだろう。」

瓶を手に取り、何度も香りを確かめながら少しずつ組み合わせを重ねていくみなさん。
その姿を見ていると、香りをつくっているというより自分の感覚と静かに向き合っているようにも映りました。

なかには十種類ほどの精油を組み合わせる方も。
夢中になって試しているうちに、
「最初に思い描いていた香りから、ずいぶん変わりました。」
と笑い合う場面もありました。

けれど、その迷いもまた香りづくりの楽しさなのでしょう。

明日生さんは、一人ひとりの「こんな香りにしたい」という想いに耳を傾けながら、

「こちらを少し加えてみましょうか。」
「この香りとも相性がいいですよ。」

と、そっと寄り添ってくださいます。

そうして少しずつ形になっていく香り。
迷いながら重ねた一滴一滴がその人らしい香りをつくり上げていました。

 

世界にひとつだけの香り

最後に自分だけの香りに名前をつける時間があります。

その日の気分や思い出、これから過ごしたい時間への想い。

一つひとつの香りに込められたものを言葉にして残すことで、たったひとつの特別な香りが完成します。

「この香りは、朝の静かな時間に使いたい。」
「旅先で感じた空気を思い出す香りになりました。」

そんなお話を聞いていると、香りはただ心地よさを届けてくれるものではなく、その人の記憶や暮らしにそっと寄り添うものなのだとあらためて感じます。

好きな香りを探しているようで、実は今の自分が何を心地よいと感じているのかを確かめている。
香りをつくることは、自分自身の感覚に静かに耳を澄ませる小さな時間なのかもしれません。

 

また季節が巡る頃に

今回も一人ひとりに寄り添いながら香りの世界を届けてくださった明日生さんに、心より感謝いたします。

春、夏、秋、冬。

季節が変われば、きっと選ばれる香りも変わっていくのでしょう。
次にみなさんと香りを囲む時には、どんな香りが選ばれ、どんな名前が生まれるのか。
そんな楽しみを胸に、また季節が巡る頃に香りを囲む穏やかな時間をご一緒できたら嬉しく思います。