土鍋と過ごす一日
お鍋が美味しい季節になりました。
今日はお休みなので、夜はゆっくりあたたかい鍋を囲もうと、先週から決めていました。
頭の中に浮かんでいたのは、大根の鬼おろしをたっぷり入れたみぞれ鍋。
体の芯までほっと温まる、あのやさしい味が恋しくなったのです。
早速、近くの行きつけのスーパーへ買い物に出かけました。
野菜売り場には、旬のお野菜が整然と並び、どれもみずみずしい香りをまとっています。身の詰まった太い長ネギに、葉先まで鮮やかな春菊、つややかな大根…。
かごの中には、少しずつ鍋の食材が集まっていきます。
鮮魚売り場へ足を進めると、脂ののったタラの切り身がきれいに並び、思わず立ち止まりました。透き通るように白く、厚みのある身がなんともおいしそうです。
これで、今夜の鍋の準備は万端です。
買い物を終えて帰ろうとしたそのとき、売り場の片隅で、つややかに光る栗を見つけました。
こんな立派な栗がまだ残っていたなんて。
季節の終わりとは思えないほど大粒で、ぷっくりとした丸みとずっしりとした重み。
「これは、栗ご飯にしたらおいしいだろうな。」
そう思った瞬間、自然と手が動き、栗もかごに入れていました。
夜は鍋の予定でしたが、せっかくなのでお昼に栗ご飯も土鍋で炊くことに。
一日中土鍋と過ごす、そんな日もいいものです。
栗ごはんを炊く
家に帰ると、さっそく栗の下ごしらえを始めました。
皮をむくのは少し骨の折れる作業ですが、こうして季節のものに手をかける時間は、どこか特別な心地よさがあります。
包丁の先で固い殻と鬼皮を少しずつ削りながら、中からそっと実を取り出す。ひとつ、またひとつと、まな板の上に並んでいく栗の姿がかわいらしく、気づけば夢中で手を動かしていました。
洗ったお米に出汁を注ぎ、塩と酒をほんの少し。そこに、下ごしらえを終えた栗を、ひとつずつそっと土鍋に並べます。
澄んだ水の中で、お米と栗がきらりと光り、火にかける前の静けさまでもが、美しく感じられます。
火を入れると、ふつふつと小さな泡が立ちはじめ、沸騰したのを確かめて火を弱めます。
蓋の向こうで、どんな景色が広がっているのだろう。お米と栗が、ゆっくり水分を含みながらふっくらと、秋の香りをまとっていく。そんな情景を思い浮かべながら、しばし待ちます。
15分ほど経つころ、立ちのぼる湯気が甘くまろやかな香りに変わっていました。そして火を止めて、蓋をしたまま10分ほど蒸らす。“呼吸する土”とも言われる粗土でつくられたカネダイさんの土鍋は、火を止めても穏やかな熱を保ち、お米の芯までふっくらと仕上げてくれるのです。
この静かな余熱の時間こそ、土鍋で炊くごはんのいちばんの楽しみかもしれません。
蓋を開けると、ふっくらと炊きあがったごはんの中に、黄金色の栗が顔をのぞかせていました。しゃもじを入れると、もちっとしたお米とほくほくの栗が優しく混ざり合い、湯気の向こうに秋の香りが立ちのぼります。
ひと口食べると、やさしい甘みと塩の加減がちょうどよく、
「やっぱり土鍋で炊くごはんは格別だなぁ」と、思わずひとりごとがもれていました。
手間をかけた分だけ、味わいが深くなる。
そんな当たり前のことを、栗ごはんが改めて教えてくれた気がします。
鬼おろしのみぞれ鍋
夕暮れどき、外の空気がすっかり冷え込んできました。
栗ご飯の甘い香りがまだ部屋の中に残る中、夜ごはんの支度を始めます。
まずは出汁から仕込みます。土鍋に水を張り、大きな昆布を一枚沈めます。火を入れると、鍋の底から小さな気泡がゆらゆらと立ちはじめ、昆布の旨みが少しずつ水に溶け出していくのがわかります。
出汁がじんわりと温まるあいだに、具材の準備を。
太く立派な長ネギは、網の上で軽く焼いて、表面にこんがりと焦げ目をつけます。この香ばしく焦げた風味が、今日の鍋に深みを加えてくれそうです。
大根は鬼おろしでざくざくと。
粗めにおろした大根は、口に入れたときにほどよい歯ざわりが残り、やさしい甘みを引き立ててくれます。
この“鬼おろし”が、今日の鍋のいちばんの主役です。
澄んだ出汁の中に、タラの切り身をそっと並べます。続いて、焼いたネギや大根、春菊、舞茸などの具材をひとつひとつ丁寧に加えていくと、土鍋の中に季節の色が少しずつ広がっていきました。
最後に、大根の鬼おろしをたっぷりと。
湯気の向こうで白いおろしがじんわりと溶けていく様子は、まるで雪のよう。
少し味見をしてみると、出汁の旨みに、食材それぞれの旨みがぎゅっと寄り添いながら調和していました。そのやさしい味わいに、頬がゆるみます。
土鍋のあるくらし
夜の食卓には、みぞれ鍋と一緒に、お昼に炊いた栗ご飯も並べました。
せいろで温め直した栗ご飯は、ふっくらと湯気をまとい、お昼のできたてのときよりも味が馴染んで、やさしく落ち着いた味わいに。
みぞれ鍋は、やはり鬼おろしがいい仕事をしてくれていて、出汁をしっかりと吸いながら、他の食材とやさしく絡み合い、旨味をいっそう引き立ててくれました。
鍋を囲むと、どうしてこんなにも会話が弾むのでしょう。
湯気の向こうで、笑い声が混ざり合い、心までほどけていきます。
ふと外の方を見ると、窓ガラスがうっすらと曇っていました。
外の冷たい空気と、部屋のぬくもりがそこで出会って、まるで「今」というの時間をそっと閉じ込めているかのように思えます。
カネダイさんの土鍋は、今日一日、よく働いてくれました。
食べ終えたあとも、そっと手を添えると、まだかすかに温もりが残っています。
これから寒さが深まっていく季節、この子に自然と手が伸び、わが家の食卓をあたためてもらう日が増えそうです。
みなさんは、どんな鍋料理がお好きですか。
どのご家庭にも、その家ならではの鍋の味がありますよね。
今度、お料理好きの友人に教わって、これまで作ったことのないお鍋にも挑戦してみたいです。

