ほうじ茶の香りに誘われて
いつもの道で、ふと立ち止まる 神楽坂通りを歩いていると、ふと立ち止まりたくなる瞬間があります。その理由は、毘沙門天の向かいにある「楽山」さんの店先から漂ってくるほうじ茶の香り。香ばしく、どこかほんのり甘い香りが風に乗って届くと、「今日はほうじ茶を買って帰ろう」と寄り道をしたくなります。神楽坂に暮らし始めて二年。何度も通っている道ですが、この香りに包まれると、今でもつい足を止めてしまうのです。 夏のあいだはキリッと冷やして味わっていたほうじ茶も、朝晩の空気が涼しくなってくると、急須で温かく淹れたくなります。温かいほうじ茶は、食後の口直しにもすっきりと馴染みますし、甘いお菓子と合わせてもお互いの魅力を引き立ててくれる。わが家では季節を問わず楽しんでいるお茶です。 香りの先で見つけた、秋の味 楽山さんでお茶を買った日は、そのまま五十鈴さんへ足を延ばすのが、私のお決まりのコースです。 この日、店先に並んでいたのは栗蒸し羊羹。つややかな栗がゴロゴロとのぞく姿に、「ああ、もうそんな季節だな」と嬉しくなります。香ばしいほうじ茶と一緒に味わおうと、持ち帰ることにしました。 神楽坂は、本当に歩くのが楽しい街です。長く暮らしていても、歩くたびに新しい表情や素敵なお店に出会えます。だからこそ、あえて目的を決めずにふらりと歩き、気になった景色や香りに誘われるまま寄り道を重ねてしまう。気づけば予定にはなかった小さな楽しみを手にして、満足感とともに家路につくこともしばしばです。そんな風に、その日の気分に身を任せて街を歩く時間が、日々の暮らしに心地よい彩りを添えてくれます。 外で感じた秋を、家でもう一度 家に帰ったら、さっそくお気に入りのうつわを出して、栗蒸し羊羹をひと切れ。急須に茶葉を入れ、ゆっくりとお湯を注ぎます。ふたを開けた瞬間、さっきまで街で感じていた香ばしい香りが、今度は部屋いっぱいに広がっていきました。 湯呑みにお茶を注ぎ、まずは栗のやさしい甘みを味わってから、ほうじ茶をひと口。ふと気づけば、窓から入る風も、いつの間にか秋の涼やかさを運んできていました。 街を歩くなかで出会った小さな秋が、そのまま家までついてきてくれたような、温かく満たされた心地よさ。今年もまた、温かいお茶がいっそうおいしく感じられる季節がやってきます。


水の流れを思わせる、やわらかな曲線
暮らしの光が映し出す、ガラスの表情
ガラス作家 LAN







